INTRODUCTION

 生命科学が発展した昭和、医療技術が躍進した平成、そして令和時代における情報駆動型社会Society5.0に対応するために、医療現場では多職種の医療人が対等に協力しあう「チーム医療」の必要性がますます高まっている。
 
大阪医科大学では、看護学部が開設された10年前から「医看融合」をカリキュラムに取り入れてきた。現在は、2021年度に予定されている大阪薬科大学との統合を見据えて、医薬看による多職種連携教育を進めている。
 
今回は、医学部、看護学部、薬学部の先生方による座談会形式で、医薬看それぞれの立場から多職種連携教育の必要性とその背景についてお話を伺った。

なぜ今、多職種連携教育なのか?

はじめに、各学部の立場から多職種連携教育の必要性について教えてください。

看護学部 急性期成人看護学
赤澤 千春 教授

赤澤先生 大阪医科大学に看護学部が開設された約10年前、目玉カリキュラムのひとつとして「医看融合」を掲げ、順次発展していったという経緯があります。当時、医看融合は画期的なカリキュラムでしたね。

大橋先生 昔から看護師は医師との連携を意識していましたが、どちらかというと「医師の指示を受けて動く」という受動的な連携でした。しかし、これからの時代は、看護師が医師、もしくは他の医療職の役割を学び、能動的なスタンスで連携できるように教育していく必要があります。

医学部 医学教育センター 副センター長
寺﨑 文生 専門教授 

駒澤先生やはり、 多職種連携教育の一番の目的は患者さんの安全を確保し、最大の治療効果と満足度を提供するためだと思います。医学部の学生には、病棟でともに働く他の医療職が何を考え、何を目的として動いているのかを、多様な視点で理解してほしいですね。
寺﨑先生 医療に関する知識や技術が高度に多様化し、各領域の専門性が高まる現代では、医師だけですべてを把握して指示を出すのは難しくなりました。薬についても、作用機序や副作用については、薬剤師に教えてもらう必要があります。多職種連携教育の根本にあるのは、みんなで協力しあって患者さん中心の医療をするということだと思います。

大阪薬科大学 臨床薬学教育研究センター
中村 敏明 教授

角山先生 医療現場では、他の職種の人が何を大事にして、どういう風に患者さんに関わっているのかを知っておかないと、トラブルの解決に時間がかかってしまいます。特に薬剤師は、医師による処方から仕事がはじまるという印象がありますが、これからは薬剤師の視点から処方の提案をしていけるように教育していけたらと思います。

中村先生 かつては、「薬をつくる(創薬)」ことが薬学教育の優先事項でしたが、現在はよく効く薬が出てきた一方で使い方が難しくなっています。安全性の高い医療を提供するために、「薬を使う」場面でも薬剤師が必要とされるようになり、薬学教育は6年制になったわけです。しかし、薬学部生向けの臨床教育体制はまだ十分とは言えません。薬学教育と臨床現場を近づけるうえでも、多職種連携教育には期待するところがあります。

多職種連携教育は医療現場に“効く”

卒前教育に多職種連携教育を取り入れることは、医療現場にどのような効果をもたらすのでしょうか?

赤澤先生 多職種連携のメリットを一番感じているのは看護師ではないでしょうか。かつての医療現場では、薬剤の管理から投与を含めた実務の大半を看護師が担っていました。その重い負担ゆえに、医療ミスの当事者になってしまうケースもありました。各医療専門職が病棟に入ることで、看護師の負担は減り、患者さんのケアに集中できるので回復も早められるんですね。

駒澤先生 たしかに、薬剤管理上の様々な問題は、薬剤師が病棟に入ることで減らすことができますね。緩和病棟のチームにも薬剤師が入ることが多くなり、「なぜ医師は薬剤の剤形や投与量についてまで詳細なオーダーをするのか?」を理解してもらいやすくなりました。また、急性期医療だけでなく超高齢化社会の到来に伴い慢性期医療や緩和医療の比重が高くなっていることも、多職種連携の必要性を高めていると思います。

寺﨑先生 ある知人の薬剤師に聞くところでは、副作用の説明をすると患者さんが心配されて「飲みたくない」と服薬を拒否されることがあるそうです。そういうとき、担当医師に「なぜ、余計なことをするのか」と言われると、薬剤師としては非常につらい。あるいは疑義照会を嫌がる医師もいると話していました。こうした問題も、多職種連携で話し合いながら、患者さんのためにより良い医療を模索することが大切だと思います。

効果的な多職種連携教育を実現するには

大阪医科大学では、さまざまな教育手法を組み合わせて、複数年次にわたる多職種連携教育科目群を「垂直統合型カリキュラム」として学部専門教育に織り込んでいます。どのような教育効果の実現を目指しているのでしょうか。

大阪薬科大学 臨床薬学教育研究センター
角山 香織 准教授

角山先生 低学年では学部を越えた交流によって、「医学部生は近づきがたい存在ではなく、自分たちと同じような学生なのだな」という感覚をもち、医師と他の医療職が対等に話せる素地をつくることも教育効果のひとつですね。

駒澤先生 中〜高学年では臨床・臨地実習と臨床カンファレンスを行います。これから慢性期医療が在宅中心になっていくことを考えると、社会の中における「保健医療の中で我々がどうあるべきか」という考え方は非常に大切です。

看護学部 在宅看護学
大橋 尚弘 助教

赤澤先生 臨床・臨地実習という点では、看護の世界では、早い段階から地域医療を見据えて、臨床に限らない「臨地」という言葉を使ってきました。

寺﨑先生 現場が大事だということはみんなが共通して感じているところですね。最終段階で目指すところは、臨床臨地実習を踏まえた合同クリニカル・クラークシップです。

駒澤先生 最最高年次の「多職種融合ゼミ」では、高度な専門知識に基づいて連携しなければ解決できない医療安全に関する課題に対して、Problem-based learningというシミュレーション教育法を活用した実践型の演習を行っています。医学教育において、倫理上の問題から臨床事例を使えないときに、シミュレーションシナリオを用いた演習は有効です。また、医薬看合同での演習は数百人規模になるケースもありますが、オンライン化することで空間的な制約も解決可能です。

大橋先生 看護学部では、ふだんの講義・演習レベルから多職種連携を意識して教育しています。たとえば、訪問看護の計画を立てるときには、医師、リハビリを行う理学療法士、訪問薬剤師などさまざまな職種と関わりがありますから、多職種の動きをつなぐ計画を立てなければなりません。

より良い多職種連携教育のために

多職種連携教育を進めるにあたって、課題として考えられることをお聞かせください。

駒澤先生 学生の学びを表面的なものにしないために、教員のファシリテーションが非常に重要だと思います。そのためにも、医薬看の教員同士がお互いの違いを知る教員研修が必要になると思います。その基盤としても、書籍『実践 多職種連携教育』を活用してほしいと思います。

多職種連携教育における学生評価についてはどのように考えられていますか?

寺﨑先生 日本保健医療福祉連携教育学会(JAIPE)では、多職種連携能力の基盤となる3つのコア・コンピテンシーとして「他の専門職と区別できる専門職能力(Complementary)」「全ての専門職が必要とする共通能力(Common)」「他の専門職種と協働するために必要な能力(Collaborative)」を提案しています。こうしたものを踏まえつつ、全学部共通、そして各学部にとってのコンピテンシーをつくり上げて、評価方法を考えていくことが大切だと思います。

大橋先生 たとえば、「患者さんの希望、身体状況、認知機能などを薬剤師が理解して調剤、服薬指導できるように連携できているか」といったことが、看護師として他の職種と協働する能力(Collaborative)を評価する一つの視点になりえると思われます。

医学部 医学教育センター 副センター長
駒澤 伸泰 講師

駒澤先生 多職種連携教育での評価は、‘フィードバックを受けて改善していく’ための形成的評価であるべきです。そのためにも、「次はこういう風にやりましょう」と、あくまでもポジティブなフィードバックを返さないといけないでしょうね。

角山先生 自分が成熟していくために、変えるべきことに気づき、できていることは強みとして補強していけばいいのです。次に繋げていくために、3学部ですり合わせて共通の評価を定められたらと思います。

今後の展望についてはいかがでしょうか?

中村先生今は急性期のみを病院で過ごし、それ以外では在宅で介護をする流れになりつつあります。これからは、我々の方が地域に出ていかないと医療が成り立たない時代。従来の薬局業務はどんどん機械化していますし、薬剤師がやる必要性は低くなっていますから、薬剤師でなければできないことがあるところに出て行くべきです。そのための多職種連携教育だと思います。

赤澤先生 卒前教育で多職種連携に対する意識を高めても、現場に出てみたら従来通りの立ち位置に立ってしまい、学びを活かしきれていないということもあると思います。今後は、継続的な卒後教育も大切ではないでしょうか。

角山先生 私たちの目標は、学生が臨床現場で多職種連携を実践できることです。そういう教育を目標に掲げれば、現場の先生方の意識も変わらざるを得なくなると思いますし、卒業生たちが医療現場の意識を変えていくことも考えられます。多職種連携教育の副次的効果として、こうした医療現場の変革も期待できるのではないかと思います。

ありがとうございました!

この記事に登場した先生