当研究室では、小児開心術後の集中治療の鎮静でデクスメデトミジン塩酸塩(DEX)を積極的に使用したプロトコールを展開してきました。全世界的にその投与は拡がっていたが、その使用は小児では適用外使用でした。このため小児領域での承認と保険適応のための国内他施設で治験を計画、実施しました。2018年11月DEXの小児適応が世界で初めて日本で承認されました。この承認申請に用いられた小児開心術後集中治療患者を中心としたDEXの国内第III相臨床試験の結果の概略を以下に示します。
人工呼吸中の小児(修正在胎45週以上17歳未満)に対しDEXを静脈内投与しました。最大投与速度の設定は小児の血漿中濃度の予測値が成人の最大維持投与速度(0.7 μ/kg/h)を投与したときの血漿中濃度と同程度となるように設定しました。初期負荷投与は行わず、開始投与速度は0.2 μ/kg/hとし,維持投与速度は患者の鎮静深度に応じ,修正在胎45週以上6歳未満では0.2~1.4 μ/kg/h,6歳以上17歳未満では0.2~1.0μ/kg/hとしました。有効性評価項目は,DEX投与開始から投与24時間あるいは人工呼吸終了(いずれか早い方)までの期間に適切な鎮静に到達・維持するために人工呼吸中にレスキュー鎮静薬(ミダゾラム)の投与を必要としなかった被験者の割合としました。
有効性解析対象63例中,調査対象は61例でした。調査対象において、観察期間までにレスキューの投与を必要としなかった被験者の割合[95%信頼区間]は77.0%(47/61例)[65.0, 85.9]であり、治験の有効性解析対象集団の結果と同様に、調査対象においても有効性判定基準(40%)をおよび期待有効割合(60%)を上回る結果でした。試験中に認められた副作用はDEXの持つα2-agonist作用としての予想される反応である徐脈(11.5%)と低血圧(4.9%)、そして呼吸抑制(3.3%)でした。重篤な有害事象はDEXとの因果関係のない心タンポナーデ1例のみで、試験中止例および死亡はありませんでした。DEX投与終了1~2時間前(もしくは漸減開始直前)の薬物動態は年齢群による明らかな差はなく、大部分が目標血漿中DEX濃度に到達していました。
本試験結果により小児開心術後の集中治療における小児DEXの有効性と安全性が確認され、世界初の小児適応を獲得しました。