左右短絡性先天性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症では、閉塞病変が進行すると不可逆的となりチアノーゼの出現や生存率の低下に至ります。難治である本症では”適切な肺循環の定量的評価“に基づいたタイミングの良い治療介入と効果判定が重要ですが、臨床で汎用可能な評価法は脈圧をもった流れを定常流に仮定した場合の”血管抵抗“のみであり、拍動流の解析法には合致せず、また血管以外の諸条件により変動するため、病態を正確に反映しません。まして肺動脈の閉塞性病変が可逆的か否かを評価する方法はありません。
この課題を解決するために、肺循環を“波動現象”ととらえ機械工学的解析手法を導入し、“病態本来の血管閉塞度の定量的評価の指標”を新たに開発しています。
肺循環を波動現象ととらえると、波動現象の2変数(圧力と血流速度)の位相差により、肺高血圧症の本態である血管閉塞度の直接的かつ定量的に評価することが可能です。末梢に閉塞病変のない正常肺動脈では、心臓からの進行波は徐々に減衰するのみで、圧力と流速の位相差は生じませんが、末梢に閉塞病変を有すると、閉塞部分で動脈インピーダンスの変化を生じ、反射波が発生します。この反射波により進行波の圧力と流速の位相差が生じます。理論上、閉塞病変のない血管では、位相角θは0°となり、完全閉塞では、θ=-90°となります。 小児肺動脈の各パラメーターを用いた計算シミュレーションで無反射端でθ=0°、完全閉塞でθ=-90°となり、また拍動流模擬回路での圧—流速同時測定ワイヤーによる位相角の検討でも、理論値と一致することが証明されました。臨床での小児心臓カテーテル検査での圧—流速同時測定ワイヤーを用いた検証では、肺高血圧群の位相角の絶対値は正常群に比し高値を示し、回路実験と同様に閉塞度が高いことが推察されました。
特許
「診断支援装置及びコンピュータプログラム」—特許第6484787号(登録日平成31年3月1日)
助成金
平成29年—31年度 科学研究費補助金 基盤研究 C(平成29、30、31年度)
共同研究先
大阪医科大学医学部 小児科学教室、関西大学 システム理工学部