自己組織に置換され伸張可能な心臓血管修復パッチ

小児心臓手術では、解剖学的異常を修復するために人工物である心臓修復パッチが移植されます。既存の製品に使われる材料(ゴアテックス、ウシ心膜等)は、材質の劣化や変性(石灰化、退縮)とサイズ不変による成長ミスマッチを原因とする再手術(パッチ交換等)をしばしば余儀なくされます。この問題の克服には自己組織に置換される材料の登場が望まれます。しかしながら培養装置内で細胞播種を用いたティッシュエンジニアリングによる組織再生法の応用が国の内外で30年以上に渡り研究されてきたが実用化に至ったものはありません。また既存製品のすべては海外からの輸入に頼っており、輸入超過による貿易赤字の問題ばかりでなくその供給は生産国の情勢や流通により不安定であるため国産の製品が望まれています。
この課題解決のためバイオマテリアル技術とシート成形技術を駆使する“in situ tissue restoration 法”を応用し、自己組織再生を最大限に促す足場となる新しいパッチの作成に挑戦しています。感染や血栓形成を防ぎ、成長に伴う 臓器サイズ拡大に追随する機能を期待するものです。
医療グレードの生分解性ポリマー(PLLA)および非分解性ポリマー(PET)糸を用い、伸張可能な 3D 構造を持つ経編布にゼラチンコーティングを施したシートを作成しました。 手術が安全に行える基本的物性と生物学的安全性を確保しました。また下行大動脈への埋植試験では、パッチが生体内で段階的に自己組織に置換されることが確認されました。ヒトに応用可能な品質管理と生産体制を構築しました。
 令和元年5月27日に多施設共同による治験が開始され、令和4年の承認申請を目指しています。

特許

「経編地及び医療材料」—特許第6310167号(登録日平成30年3月23日)、特許第6537656号(登録日令和1年6月14日)

助成金

AMED 医工連携事業化推進事業(平成 26、27、28 年度および 29、30、31 年度)

共同研究先

福井経編興業株式会社、帝人株式会社