NEMOTO SHINTARO
医学部 胸部外科学教室
専門教授
研究開発段階
研究のポイント
- 先天性心臓病治療に際し、手術により体内に埋植された小口径人工血管の流量を体外から調整可能とするディスポーザブルデバイスの開発
- 誰もが使用可能な簡便な構造、および数カ月以上に渡る性能維持が可能な耐久性を有するミニチュア化バルーンを作成
- 術後フェーズの必要性に応じた人工血管血流量の最適化が図れる
研究キーワード
チアノーゼ性心疾患、Blalock-Taussig手術、小口径人工血管、流量調、ディスポーザブルバルーン
研究の背景

小児の先天性心臓病のうち肺血流が減少するチアノーゼ(低酸素血症)を引き起こす場合に、乳幼児期早期に肺血流を増加させ肺動脈の成長を促す鎖骨下動脈と肺動脈とを小口径人工血管(径3-5mm)で接続するBlalock-Taussig手術(BTS)が行われる(右図)。その後成長してから心臓の異常をすべて修復する手術にステップアップする。しかしBTSで設置される人工血管のサイズが過大となる場合には、肺血流過多による肺うっ血と心不全、また重症な場合には全身血流量低下による臓器潅流低下によるショック状態を引き起こし、時には死に至る場合がある一方で過少サイズでは、肺動脈の低形成と低酸素血症が時に生じる。しかしながら患者背景が広範でありそれらのサイズ選択に一定の基準設定ができないため、サイズに関係なく何らかの方法で人工血管の流量を調整できることが望まれる。今までに海外から多くの流量調整デバイスのアイディアが報告されているが、実用化に至った事例は無い。
研究の概要・進行状況
日本小児循環器学会でのアンケートでは同様のニーズがあることを確認した。この課題解決のため、私たちは先行研究で協力企業と共にミニチュア化した円筒形バルーンを試作した。このバルーン内に人工血管が内挿され、バルーン内容量の変化により人工血管の断面積が変化し流量調整可能となる。一方でバルーンは皮下ポートに接続されるため経皮的に体外からバルーン容量を可変可能である(写真左ーPTFE vascular gaft:BTS人工血管、balloon:本医療機器バルーン、saline:生理食塩水、subcutaneousinjection port:皮下ポート)。写真右は試作品の動物実験での埋植の実例を示す(Lt. Subclavian Artery:左鎖骨下動脈、Device:本医療機器、PTFE graft:BTS人工血管、Pulmonary Artery:肺動脈)。ポリウレタンを素材として採用し流量調整能を確認したが、数カ月の留置でもバルーン容量を維持できる耐久性については未達成である。PMDAとのRS全般相談を終了し、開発の方向性を確認した。今後は素材とデザイン改良を継続させ、薬事申請(GLP試験および臨床治験)と市場化に向けた製販企業とのコンソーシアム形成と資金の獲得を目指したい。
市場性
わが国では年間580例前後のBTS手術が実施されている。前出のアンケート結果から、この約半数での使用が見込まれており、保険償還価格の設定にもよるが、6,000~10,000万円/年の売上を試算。将来的には海外での販売へ展開したい(参考:医療機器の市場規模米国は10倍、欧州は7~8倍、アジア4~5倍)。
想定する社会実装の形
特定保健医療材料、保険適応C1(新機能・新技術)、希少疾患に用いるイノベーション評価を獲得し、国内外に販売する事業化をゴールとしている。
連携先へのメッセージ
社会実装に向けた研究を推進するため、バルーン素材と製造技術を保有する企業を求めています。第1種医療機器製造販売業を併せて取得していることも希望していますが、他の業取得企業とのコンソーシアムへの展開も考慮しています。私たちは複数の企業(モノづくり中小企業、第1種医療機器製造販売企業等)とのコンソーシアムによる新規医療機器の事業化の成功を複数経験しており(Synfolium®、Pawdre®等)、今までに培ったノウハウとネットワークの活用が可能です。
関連論文・知財
- 日本小児循環器学会雑誌vol. 32 (2016) 154-159
- Development of a simple device enabling percutaneous flow regulation for a small vascular graft for a Blalock‒Taussig shunt capable of flow regulation: complete translation of an original article originally published in Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery. Motohashi Y, Shimada R, Sasaki T, Katsumata T, Dan K, Tsutsui Y, Nemoto S. Gen Thorac Cardiovasc Surg, Mar 66(3), 145-149, 2018
[特許]第6466120号