魚類の腸管や尿管で感染を防御する遺伝子産物

小野 富三人
ONO FUMIHITO

医学部 生理学教室
教授

カテゴリー:その他

研究開発段階

研究のポイント

  • 機能不明であった遺伝子omcinが魚類で感染を抑えていることを発見
  • omcin遺伝子を欠損する魚は、濁った水中では細菌感染症により全滅した
  • omcin遺伝子群は複数の淡水魚、海水魚で環境に応じてそれぞれ進化していた

研究キーワード

感染制御、細菌、淡水魚、腸管、尿管

研究の背景

小型熱帯魚であるゼブラフィッシュは医学・生物学のモデル動物として世界的に広く使用されており、大阪医科薬科大学医学部生理学教室では100個以上の水槽で遺伝的に異なるゼブラフィッシュを飼育して研究を行っている。今回他のプロジェクトの研究過程で偶然に発見されたomcin5遺伝子はゼブラフィッシュのゲノム上の狭い領域で10個以上のファミリー遺伝子に増幅しており、また他の淡水魚、海水魚の中でも種ごとに独自の増幅と分化を遂げていた。omcin遺伝子産物は現在まで実用に供されたことのない物質で、ゼブラフィッシュではこの遺伝子を欠損すると顕著な易感染性を示すことから、魚類の養殖などで有効なツールとなることが期待される。さらに細菌感染症は、医学的に昔も今も臨床上大きな問題であり、現在の主要な治療手段である抗生物質は抵抗性を持つものが次々と現れることが課題であるため、現行の抗生物質を補完する手段が切望されている。今回淡水魚から単離された抗菌性を担う遺伝子は今まで医学に応用されたことがなく、その抗菌メカニズムはまだ未解明ではあるが、現在流通している抗生物質とは異なるメカニズムで働いている可能性がある。したがって現行の抗生物質と組み合わせて使うことで耐性を来しにくい感染症治療を行うことが可能となることが期待される。図1に示したのはいくつかの淡水魚、海水魚でのomcin類似遺伝子の進化と増幅で、赤と黒の縦線で示されるのがそれぞれの種のゲノム上でのomcin類似遺伝子の位置である。

研究の概要・進行状況

遺伝子の発見とその感染予防効果については以下の論文にまとめて発表した。A zebrafish gene with sequence similarities to
human uromodulin and GP2 displays extensive evolutionary diversification among teleost and confers resistance to
bacterial infection. Naruoka et al. Heliyon 10(18), e37510, 2024
現在omcin5の遺伝子産物がどのような細菌に対して効力があるのか、またどのようなメカニズムで細菌感染を防御するかの研究を進めている。図2に示すのはNaruoka(2024)で発表した内容で、通常omcin5を欠損した個体は水質浄化装置のついた生育システムで飼育されているが、浄化装置を持たない静水中で飼育すると、正常個体(上の写真)は影響を受けなかったのに対して、48時間で感染を起こし全て死滅した(下の写真)。

市場性

国内外での魚類の養殖は食用や観賞用を含めて大きな産業であり、淡水魚ではアユ、鯉、フナなど、海水魚ではブリ、シャケ、マグロ、タイなど多数の種が商業的に養殖されている。またomcin遺伝子群は、淡水魚の方が遺伝子増幅が強い傾向はあるものの海水魚や汽水魚でも類似の構造を持つ遺伝子が複数認められ、これらの魚でも効果をもつ可能性がある。また上記のように人間の感染症予防に応用できる可能性もある。

想定する社会実装の形

感染症の対策に用いられる抗生物質は、薬剤耐性菌の出現などが原因で有効性が低下してきており、新規のメカニズムによる抗菌作用を持つ物質の開発が切望されている。omcin5を含む遺伝子群は淡水魚、海水魚の中で増幅・分化を遂げていることから、それぞれの種が生息する環境で存在する微生物に対応するように進化を遂げたと考えられ、この研究を発展させることで多様な微生物を制御できる物質を単離できる可能性がある。

連携先へのメッセージ

社会実装に向けた研究を推進するため、魚類に投与する方法を開発したいと考えています。そのため特に養殖業などと関わりのある研究者や企業との共同研究を求めています。また医学的な応用も追求したいと考えています。

関連論文・知財

A zebrafish gene with sequence similarities to human uromodulin and GP2 displays extensive evolutionary diversification among teleost and confers resistance to bacterial infection. Naruoka et al. Heliyon 10(18), e37510, 2024

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