軟骨scaffoldの開発と臨床応用

大槻 周平
OTSUKI SHUHEI

医学部 整形外科学教室
教授

カテゴリー:医療機器 

研究開発段階

研究のポイント

  • 生体吸収性材料とヒアルロン酸の組合せによる治療効果の高い軟骨修復デバイスの開発
  • 既存治療に準じた使用方法が可能であり、簡便かつ汎用性の高い治療を提供できる
  • 軟骨scaffoldを用いた治療は、現治療法と比べ低侵襲かつ簡便である

研究キーワード

関節軟骨、生体吸収性材料、再生医療、Scaffold(足場)、関節鏡視下手術

研究の背景

膝関節軟骨は、骨の表面を薄く覆っている組織で、滑らかな関節の動きをサポートする。一方で、血管を欠くため、自己治癒能力に乏しい組織である。そのため、損傷が一度生じるとほとんど再生せず、損傷後は変形性膝関節症(膝OA)の進行リスクが高まることから、早期に適切な治療を行うことで、膝OAの進行や、患者のQOLの低下を防ぐことが期待できる。
現在、国内において選択できる治療法は、骨穿孔術、骨軟骨柱移植術、自家培養軟骨移植術があるが、それぞれの治療法に課題が残る。骨穿孔術は長期成績に課題があり、骨軟骨柱移植術は患者自身の正常な組織を採取する必要があることや、自家培養軟骨移植術は二期的手術が必要であることから侵襲面で課題がある。
そこで、ポリグリコール酸(PGA)や乳酸-カプロラクトン共重合体(P(LA/CL))などの生体吸収性高分子材料に着目した。これらの材料は、加水分解により分解吸収されるため、体内に埋入した後、異物として残らない特徴を持つ。また、組織修復の足場材として機能することを確認しており、最終的に自己組織に置き換わることができる。これらの特徴を活かし、我々は既に半月板の組織修復に有用であることや膝関節内で安全に使用できることの知見を有している。そこで、それらの知見に加え適切な軟骨関連因子を探索することで、治療効果の高い軟骨修復機器を開発できると考えた。
本シーズでは、本邦初となる生体吸収性高分子材料から構成される軟骨修復用医療機器の開発を目指している。

研究の概要・進行状況

製品コンセプトとして、治療効果に加え低侵襲で簡便な治療が可能となる骨軟骨柱移植術に準じて関節鏡視下で使用できることを目指した機器の開発を進めた。骨軟骨柱移植術は、既に手術方法が確立していることから、早期に広く普及できると期待できる。
試作開発として、PGAとP(LA/CL)から構成されたプラグ型の機器(開発品)を作製した。In vitro試験にて、開発品の固定性を評価したところ、既存手術である骨軟骨柱と同等の固定力を有していることを確認した。さらに、開発品を用いてミニブタへの探索的な埋植試験を行ったところ、軟骨修復に効果のあるとされるヒアルロン酸(HA)を含有させた開発品が、欠損群や開発品単独群よりも軟骨面の修復効果が高いことを確認した。ここまでの成果は特許として出願中である。
以上の成果より、開発品に含有する適切なHA濃度や量を探索することで、より治療効果の高い機器の開発が可能になると考えている。今後は、in vitro試験にて開発品に含有する適切なHA濃度や量を探索し、その効果について大動物などを用いたin vivo試験にて確認する。また、PMDA RS戦略相談を並行しながら進めることで、評価に必要な項目を確認しながら、in vivo、in vitro試験を進め、その結果を以て機器としての非臨床POC取得を目指す。 

市場性

開発品の対象患者は、外傷性軟骨損傷患者(外傷性軟骨欠損、離断性骨軟骨炎など)および初期の変形性膝関節症患者を想定している。
外傷性軟骨損傷患者の国内患者数は約900人/年※1である。特に関節の機能回復や早期治療が必要とされることが多く、適切な治療法の選択が重要であり、開発品の軟骨再生能力が有効に機能することが期待される。初期の変形性膝関節症患者は、疼痛者800万人の1%と推定し、およそ80,000人※2が開発品の対象になり得ると考えている。特に初期段階で治療を開始することで、関節のさらなる変性を防ぎ、より良好な予後が期待できる可能性がある。本開発品は、軟骨修復の新たな選択肢として、外傷性および初期の変形性膝関節症患者の治療に寄与することが期待される。
※1)第8回NDBオープンデータより
※2)わが国における運動器疾患の疫学研究より、疼痛者820万人の1%と推定

想定する社会実装の形

開発品数個を1セットとして販売し、損傷面積に合わせて必要な個数の開発品を移植するような使用方法を検討している。
開発品は保険適用を目指す予定である。保険適用上の区分はC1もしくはC2と想定している。
開発品の使用方法や適応症例を明確化したガイドラインを作成し、医療従事者への教育を行い、使用事例やデータを共有することで、信頼性を確立する。さらに、製品使用時の技術的サポートを行い、医療現場でのトラブルを最小限に抑える。

連携先へのメッセージ

非臨床試験から承認申請までを協働いただき、製品化(上市)まで進めてくれる企業を求めています。開発品は、軟骨治療における革新的な医療機器になると考えており、特にこれまで外科的治療選択肢のなかった初期変形性膝関節症患者に対し、新たな治療選択肢を提供できると考えています。また、新たな治療選択肢の提供により新たな市場を形成できる絶好の機会
だと考えています。
今後、超高齢化社会を迎える本邦において、健康な膝であり続ける膝関節温存の重要性は高まるばかりです。本邦では、変形性膝関節症による有病者数が800万人いるとされており、今後はさらに増える可能性があります。また、変形性膝関節症による経済的損失は数兆円とも算出されています。患者のQOLだけでなく経済面からも、この開発品が現在の課題を解決する一助になると考えています。

関連論文・知財

  1. The effect of glycosaminoglycan loss on chondrocyte viability: a study on porcine cartilage explants. Otsuki S et al. Arthritis & Rheumatology (58), 1076-1085, 2008
  2. Hyaluronic acid and chondroitin sulfate content of osteoarthritic human knee cartilage: site-specific correlation with weight-bearing force based on femorotibial angle measurement. Otsuki S et al. Journal of Orthopaedic Research (26), 1194-1198, 2008
  3. Impact of the Weightbearing Line on Cartilage Regeneration of the Medial Knee Compartment after Open-Wedge High Tibial Osteotomy, Based on Second-Look Arthroscopy. Otsuki S et al. Cartilage (13), 87-93, 2022

[特許]出願中