従来の心臓血管手術材料の課題解決を目指して
「心・血管修復パッチ」 の製造販売承認を申請

研究

本学(医学部 胸部外科学教室 根本慎太郎 専門教授)と、福井経編興業株式会社(本社:福井県福井市)、帝人株式会社(本社:大阪市北区)は、心臓血管手術における未解決の課題を克服するため、「心・血管修復パッチ OFT-G1(開発コード)」の共同開発を進めてきました。臨床試験における主要評価項目の達成を2022年5月に確認し、このたび帝人メディカルテクノロジー株式会社(本社:大阪市北区)が「OFT-G1」の製造販売承認申請を行いました。

1.背景・経緯

(1)先天性心疾患は心臓や血管の一部に欠損や狭窄等が発生することを特徴とし、その治療には多くの場合、パッチ状の材料を心臓や血管に縫着して血液の循環を修正する手術が行われます。また、この手術は新生児から成人まで広く行われています。
(2)近年の目覚ましい医療の進歩により、手術を受けた多くの子供たちが大人へと成長しています。一方で、既存のパッチに使われる材料は、体内での長期経過中に異物反応や石灰化によって材料が劣化し、使用部位に狭窄等が生じるなどの循環障害に至る場合には再手術による材料交換が必要となり、患者さんにとって身体的かつ経済的な負担となっています。
(3)このような課題を解決するために、大阪医科薬科大学のアイデアに福井経編興業の伝統的な繊維産業の技術を融合させて具現化する新しい医療材料の開発に、医療機器製造販売業の経験を有する帝人が参画する形で、実用化をゴールとする「心・血管修復パッチ OFT-G1」の開発プロジェクトが誕生しました。
(4)帝人メディカルテクノロジーは帝人のグループ会社で、生体内で分解吸収される手術材料の製造販売の経験を有しています。同社の販路と医療材料の品質管理の技術を活用することが、着実な上市に繋がると判断したことから、同社も「OFT-G1」のプロジェクトに加わり、製造販売承認の申請と販売を担うこととなりました。

2.「心・血管修復パッチ OFT—G1」について

(1)「心・血管修復パッチ OFT-G1」は、吸収性の糸と非吸収性の糸によるニット状の組織に、吸収性の架橋ゼラチン膜によるコーティングを施したシートです。手術によって心臓や血管に縫着された後に、まずゼラチン膜が、次に吸収性の糸が徐々に分解され、自己の組織が「OFT-G1」を含むように形成されます。この自己組織化により、異物反応や石灰化などの問題が発生しにくいという特徴があり、手術材料に起因する再手術リスクの低減が期待されます。2019年5月に開始された臨床試験においては、「OFT-G1」によると考えられる不具合や再手術は、現在まで発生していません。
(2)「OFT-G1」の開発は、2014年からは経済産業省、2017年度からは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による合計6年間の医工連携事業化推進事業に選定されており、様々な開発支援を受けています。また、2018年4月には、厚生労働省より「先駆け審査指定制度(*)」の対象品目に指定されるなど、国からの多くの支援を得て実用化の道を進んできました。

(*)患者に世界で最先端の医療機器等を最も早く提供することを目指し、一定の要件を満たす画期的な医療機器等について、薬事承認に関わる相談・審査における優先的な取り扱いを行い、迅速な実用化を図る制度。優先審査における申請から承認までの総審査期間の目標は6カ月とされている。

装着した「OFT-G1」(イメージ画像)                 自己組織化された「OFT-G1」(非臨床試験時)


3.今後の展開について

今後、大阪医科薬科大学、福井経編興業、帝人および帝人メディカルテクノロジーは、「OFT-G1」を患者さんに一日でも早く届けるための準備を進め、23年度中の上市を目指します。
また、市販後には、我が国での「OFT-G1」を用いる手術症例の集積と解析からの有効性と安全性の確立を図るだけでなく、世界でも類を見ない技術を用いた「OFT-G1」の海外への事業展開、そしてその要素技術を応用する新製品ラインアップの拡大に取り組んでいきます。

大阪医科薬科大学、福井経編興業、帝人の3者は、今回の結果をもとに「心・血管修復パッチ OFT-G1」の国内における承認申請および上市を目指すとともに、将来的には本材の適応拡大や、海外での事業化も検討していきます。そして、今後も医療機器開発を通じて、先天性心疾患の患者さんの治療およびQOL(Quality of Life)向上に貢献していきます。

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