梅ポリフェノールが新型コロナウイルスに対して阻害効果を持つことが明らかに
-紀州田辺うめ振興協議会(田辺市・JA紀南)との受託研究-

研究

本学の医学部微生物学教室の中野隆史教授と鈴木陽一講師らの研究グループは、紀州田辺うめ振興協議会(田辺市・JA紀南)との受託研究において、梅ポリフェノール(略称:UP)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して阻害効果を持つことを明らかにしました。

概要

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2、大阪医科薬科大学で分離されたOMC-510 株を使用)にUP を0.1 mg/mL の濃度で処理することにより、ウイルスの感染性が98%以上減少することが示されました(「A.ウイルス不活化試験」参照)。また、1 mg/mL 濃度のUP 存在下で、2 日間における培養細胞中のSARS-CoV-2 の複製を65%以上減少させることが示されました(「B.ウイルス複製阻害試験」参照)。以上の結果より、UP はSARS-CoV-2 に対して阻害効果を持つことが明らかとなりました。

A.ウイルス不活化試験※1

①方法

新型コロナウイルス溶液と各種濃度のUP 溶液(10 〜 0.001 mg/mL 濃度、0.2 M アルギニン ※2 , pH5 にて調製)を混合し、室温で5 分間処理しました。UP 無添加区としては、0.2 M アルギニン溶液のみを用いました。これらをVero E6/TMPRSS2 細胞に接種し、3 日間培養して、残存したウイルス数をプラークアッセイ法 ※3 で調べました。

②結果

図1. 梅ポリフェノールのSARS-CoV-2 不活化効果

UP 無添加区でウイルスが形成したプラーク数を100%とした場合、0.1 mg/mL 濃度のUP 溶液で処理したウイルス溶液では、形成されるプラーク数が1.7%まで減少していました。また、0.01 mg/mL 濃度のUP 溶液で処理したウイルスでも、プラーク形成能力は50%以上減少していました(図1)。このことから、UP は低濃度でSARS-CoV-2の感染性を不活化する効果を持つことが明らかとなりました。




※1 「ウイルス不活化試験」とはウイルスとUP 溶液を混合し、その後、ウイルスが生き残っているかどうかを細胞培養で調べる試験で、いわばUP の殺ウイルス作用(消毒作用)を調べる試験です。

※2 培養系で抗ウイルス作用を調べる場合、培地に添加する血清タンパク質がUP と結合してUP の作用を妨害することが知られております。アルギニンはUP とタンパク質との結合を防ぐために用いており、アルギニンを添加してアッセイを行っております。アルギニンそのものは、抗ウイルス作用を示さないことが明らかになっております。

※3 「プラークアッセイ法」とは、ウイルスが細胞を殺す性質を利用して、感染により死んだ細胞の集まり(プラーク)を数えることで感染力のあるウイルス量を測定する方法です。

B.ウイルス複製阻害試験 ※4

①方法

新型コロナウイルスをVero E6/TMPRSS2 細胞に接種し、2 時間培養後、各種濃度のUP 溶液(10 〜 0.001 mg/mL濃度、0.2 M アルギニン, pH5 にて調製)を含む培地と交換して培養しました。なおUP 無添加区としては、0.2M アルギニン溶液を含む培地を用いました。感染から2 日後に、培養液中に含まれる感染性ウイルスの量を、プラークアッセイ法を用いて測定しました。

②結果

図2. 梅ポリフェノールのSARS-CoV-2 複製阻害効果

比較対照処理区の感染細胞培養液に含まれる感染性ウイルスの量と比較すると、1 mg/mL 濃度のUP 溶液を添加した感染細胞の培養液に含まれるウイルス量は65%以上減少していました。また、0.1 mg/mL 濃度のUP 溶液を添加した感染細胞においても、ウイルス量は20%減少していました(図2)。このことから、UP は、2 日間培養した細胞でのSARS-CoV-2 の複製を抑えることが示されました。



※4 「ウイルス複製阻害試験」はウイルスを細胞に感染させた後、その培養にUP を添加して、細胞内のウイルスが増殖するかどうかを調べる試験です。

今後の見通し

・UP の抗ウイルス作用に関する特許はすでに取得しております(特許第6049533 号「抗ウイルス剤及びこれを含む医薬品等」)。

・UP の各種ウイルスに対する実験室レベルの報告に加え、インフルエンザウイルスに対する効果は臨床試験でも明らかになっております。今回新型コロナウイルスに対してもその機能性が明らかになり、梅を食する習慣が私たちの生活に重要であることが示唆されました。

・UP は安全性試験により安全性に優れていることが明らかになっており、各種加工食品、アルコール消毒薬などへの利用が期待されます。

・梅の貴重な成分であるUP には生活習慣病に対する機能性も見込まれ、近い将来に機能性表示食品としての開発が期待できます。

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