『小児心臓血管外科領域における「吸収-再生-成長」可能なパッチ材料の開発』更新しました

シルクフィブロインを基盤とした生分解性を有する心臓血管修復用パッチ材の開発

背景・目的

・小児心臓血管外科領域で使用する身体の伸長に応じて成長可能な手術用パッチの新規作成を目的に、生体内吸収性を有するシルク由来のフィブロイン(SF)を基盤材料とした開発を行っている。既製PTFEパッチと同等の物性の確保には材料としてSFに合成高分子を配合する必要があり(パッチへの成形はエレクトロスピニング法)、現在まで配合可能な合成高分子の網羅的検索からセグメント化ポリウレタン(PU)から開始し、各種動物へのパッチ埋植により生体内挙動を観察している。

・第2報ではポリエチレン(PEC)を配合高分子に変更し、SF/PEC配合パッチの下大静脈への埋植試験を開始し、その中期組織学的所見から課題点を抽出した。今回の第3報ではSF/PEC配合パッチでの結果のまとめと、課題解決のために配合合成高分子をペレセン(PLT)に再変更したSF/PLTの埋植試験を開始した。その初期結果を報告する。

方法













基盤材料としてのSF単体パッチのマウス皮下埋植試験

・炎症性変化を観察

・埋植部位:背部皮下

・埋植期間:2, 4週

・評価方法:HE染色(細胞浸潤)
      Picro-Sirius Red染色(繊維化)
      Kossa染色(石灰化)


PU配合パッチで課題であった生分解性の向上と炎症の低減を目的としPECに変更

・パッチの崩壊を示唆する断片化(分解ではない)

・パッチ内外側に膠原繊維を主体とする結合組織の形成
(PTFE植え込み時の病理所見に類似)

・パッチ残存組織を囲む肉芽様組織の形成(慢性炎症の持続)
 →パッチの分解性は向上した。
  一方で炎症の低減は得られなかった。

 

<ラット腹部大動脈埋植(SF/PLT=1:1, 3ヶ月)>

・パッチ表面から内部に向かう膠原繊維の浸潤あり→崩壊でなく分解性あり

・Kossa染色:パッチの石灰沈着なし

<イヌ下行大動脈埋植( SF/PLT=1:1, 1ヶ月)>

・パッチに対する炎症反応は全体的に軽度(PTFEに近い)

・自己動脈壁境界部では、マクロファージ・繊維芽細胞・リンパ球が存在し、エレクトロスピニング層間への軽度の浸潤あり。パッチに沿う小血管が存在。

・AR染色陰性で石灰沈着なし
  →パッチへの炎症性変化は低減した。
   一方分解性は早期には生じなかった。

結語

・SFを基盤とし合成高分子ポリマーの配合により既製品と同等の物性と手術操作性を有する心臓血管修復用パッチをエレクトロスピニング法で作製することが可能であった。

・配合ポリマーの各種選択と生体反応の検討から、生体内親和性(低炎症、低石灰化)からPLTが有用であった。

・SF/PLTパッチの分解性の検討は、長期埋植結果を待たなければならない。

本ページは独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C)『小児心臓血管外科領域における「吸収-再生-成長」可能なパッチ材料の開発』を報告するページです。