INTRODUCTION

大阪医科大学では、入学後の早い時期から基礎医学になじめるように、基礎系教室に所属して研究に参加する「学生研究員制度」を設けている。

今回は、学生研究員として活躍する武田悠莉子さん(4年生)、谷陽弘さん(3年生)、別役翼さん(6年生)、そして彼らを指導する小野富三人先生(生理学教室)、近藤洋一先生(解剖学教室)による座談会を開催。

研究員としてどんな研究に取り組んでいるのか、また授業と課外活動の両立のコツなど、リアルな学生生活も語ってもらった。

※文中の所属・職名は2018年3月現在のものです

学生研究員の魅力は「自由に研究できること」

武田悠莉子さん(4年生)

——最初に、みなさんがどんな研究をしているのか教えてください。

武田さん 私が所属する生理学教室ではゼブラフィッシュを用いた研究が行われています。ゼブラフィッシュは卵や稚魚が透明なので、解剖しなくても顕微鏡で観察できます。また、人間にはひとつしかない「ROMK」という腎臓に存在する遺伝子を6つも重複して持っているんです。

ROMKは、細胞でカリウムを透過するイオンチャネルというタンパク質の一種。低カリウム血症から腎不全へと至る、バーター症候群という病気に関係しています。私は、ゼブラフィッシュが持つ6つのROMKチャネルを機能解析して、研究の成果を「日本生理学会大会」で発表したほか、「関西 5 医科大学研究医養成コースコンソーシアム合宿(以下、5大学コンソーシアム合宿)」の研究発表では最優秀発表賞をいただきました。

別役翼さん(6年生)

別役さん 僕は、他大学の別学部で学んでいたときから免疫学に興味がありました。卒業後、さらに深く免疫について学ぶために大阪医科大学に入学。今は解剖学教室で、エタノールの毒性を利用して、マクロファージ(食細胞)による免疫の恒常性の維持について研究しています。

2016年に、ノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典・東京工業大学栄誉教授のテーマとして「オートファジー(自食作用)」が話題になりましたよね。「ファジー」は「食べる」という意味で、オートファジーは自らを分解することで細胞の健康を維持する機能です。

そして、死んだ細胞を取り除くプロセスがファゴサイトーシス(食作用)で、その機能を担当するのが食細胞と呼ばれる細胞群。僕は、マクロファージにおけるオートファジー、またオートファジーのプロセスを用いたファゴサイトーシスについてを研究しています。

  • 小野 富三人 先生
  • 近藤 洋一 先生

近藤先生 別役くんは、エタノールによって胸腺の細胞が受けるダメージと、マクロファージが胸腺の細胞死にどう関わっているのかを論文にしました。次は、脾臓の細胞死とマクロファージの関わりについて研究を進めています。

谷陽弘さん(3年生)

谷さん 僕は生理学教室で、ゼブラフィッシュとメダカの精子について、水温による精子の運動性の変化を調べています。おふたりより、実験期間が少なくてまだ途中なので、これからどう進めていこうかな思っているところです。

小野先生 ゼブラフィッシュとメダカは生きている水温が違うので、精子に対する温度の影響も違うのか?というところが出発点だったと思います。彼も「5大学コンソーシアム合宿」で発表をして「ベストユーモア賞」を受賞しました。趣旨としてはイグノーベル賞に近いイメージの賞ですね。

どんな研究もはじまりは“好奇心”から

——みなさんが学生研究員になったきっかけを教えてください。

武田さん 「学会に出てみたい」と思ったからです。今年春、初めて日本生理学会大会で研究の成果を発表しました。学会に出るのは本当に楽しかったですね。自分の研究に対して他の研究機関の先生方からアドバイスをいただけたり、いろんな人たちの最新の研究結果を知ったり。大好きな生理学について、いろんな考え方やアプローチに触れて、「次はこんなことをやってみたい!」という気持ちにもつながりました。

ゼブラフィッシュの水槽(生理学教室)

谷さん 僕は授業での実習発表会がきっかけでした。かなり実験的な要素の強い実習だったのですが、ちょっと予想外の結果が出たんです。未知のデータを発見する喜びをいきなり体験できたことで、好奇心を刺激されました。

別役さん 僕は解剖学教室のなかで、実習でお世話になったNabil先生のもとで勉強したいと思いました。Nabil先生の研究テーマであるオートファジーは、僕が学びたいと思っている免疫の分野でもすごく重要です。そこで、免疫を担当する器官である脾臓と胸腺と、テーマが決まっていきました。これからの医療が発展するなかでも、基礎からのアプローチは重要ではないかと思っています。


——先生方のサポートや研究環境はいかがですか?

別役さん スタッフの先生が多いのはすごくラッキーです。他大学だと、ドクターコース(博士課程)の人に指導してもらうことが多いのですが、先輩方は論文を書いているときは忙しくて声をかけづらい。先生方に、一対一でしっかり教えていただけるのはありがたいです。

谷さん 「5大学コンソーシアム合宿」のとき、他大学の先生方から「君の研究室は自由だね。やさしい先生方だね」と言われました。研究室の特色に関係ないテーマを選んでも、「好きなことをやったらいいよ」と懐深く受け入れてくださるのは、すごくいいと思います。

近藤先生 『自由な校風』は、大阪医科大学の伝統です。学生たちの好奇心を育てたいので、自由な研究ができる環境は大事だと思いますね。

学生研究員になるメリットは?

——学生研究員のほかに、部活やアルバイトなどの課外活動もしていますか?

武田さん 3年生のときはグリークラブの主将をしていたので、週2回練習をして、発表会があるときは土日も活動していました。アルバイトでは塾講師をしていて、医学部を志望する高校生たちに生物を教えています。

谷さん 僕は軽音楽部に入っています。大阪医科大学は部活が盛んで、卒業した先輩たちともつながっています。サークルに比べると部活は厳しいですが、皆でひとつのことを達成する喜びを得られる良さがあると思います。

——授業だけでも多忙だと思いますが、その他の活動とのバランスはどのように?

武田さん 私は授業の空き時間を有効活用していました。試薬を反応させるのに1時間、2時間かかる場合もあるので、その待ち時間に勉強をすることもありました。

小野先生 武田さんには、今年の新入生合宿に学生メンターとして参加してもらいました。教員よりも、身近な先輩の方が学生もいろいろ質問しやすいようですね。

武田さん 授業のこと、テストのこと、勉強の仕方やアルバイトのことなど、いろんなことを聞かれました。4月第一週の合宿なので、みんないろいろ不安だったんだと思います。

——学生研究員になって良かったと思っていることは?

別役さん 1年ほど前になりますが、日本解剖学会で発表しました。スライドやポスターをつくるなかで、自分の考えがまとまっていきましたし、先生方のご指導のもとに同じテーマで論文も書かせていただきました。研究実績は、やはりひとつの個性になりますし、就職においても自分のやってきたことをクリアに伝えられる良さもあると思います。

武田さん 研究を進めていくと、まだ誰も知らないデータを見ることができます。未知の世界に自分が一番乗りできるんですよね。別役さんのように、論文を出して発表すると、自分の名前を残すこともできます。

谷さん 知的好奇心が満たされるという単純な喜びもあります。本を読んだり、教科書で学ぶことは考える礎になりますが、研究によって知識を得たり、得れなかったりする体験はもっと自分の血肉になる感覚があります。血肉になった力によって、他のことを深く見れたりもすると思うときもあります。学問を追究する過程を全部体験できるのも医学部のいいところかもしれません。

——最後に、後輩に向けてメッセージをお願いします。

武田さん 最初は、自分が何に興味があるのかわからない状態だったので、「いいテーマはありますか?」と先生に相談したら、「こういうテーマはどう?」と選択肢を出してくださって。そのなかから選んだテーマを、今も続けて研究しています。

「この研究をしたい」という目標がなくても、「研究してみたい」という興味があれば、学生研究員になれると思います。研究しながら自分に合うテーマを見つけていくのもアリですから。「実験をしてみたい」くらいの気軽さで、ぜひ学生研究員に参加してほしいです。

小野先生 学生研究員には、「絶対に結果を出さなければいけない」というプレッシャーがありません。まずは、自由なテーマで研究の楽しさを感じてもらえればと思います。



同じ学生研究員とはいえ、そのスタイルは三人三様である。しかし、その多様性こそが大阪医科大学の特色だ。さまざまな背景と個性を持つ学生が、それぞれのスタイルで医学を追求できる環境も用意されている。自分が目指す医学、そして取り組みたい研究テーマに一歩近づくためにも、ぜひ「学生研究」にチャレンジしてほしい。

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