実用化にむけて臨床での性能を確認
「心・血管修復パッチ」 臨床試験で主要評価項目を達成

研究

本学(医学部 胸部外科学教室 根本慎太郎 専門教授)と、福井経編興業株式会社(本社:福井県福井市)、帝人株式会社(本社:大阪市北区)の3者はこのたび、共同で開発を進めている「心・血管修復パッチ OFT-G1(仮称)」の臨床試験において、主要評価項目の達成を確認しました。

1.背景・経緯

(1)心臓の一部に欠損が生じたり、心臓の血管に狭窄が存在するなどの先天的な疾患を持つ患者さんは、一般的に、欠損した組織や狭窄した血管を代替するための修復パッチを埋植する手術を乳幼児期から成人までの間に受けます。
(2)近年、手術手技や医療機器などの進歩により、このような治療を受けた先天的な心疾患をもつ患者さんの長期生存が可能になりました。一方で、患者さんの成長に伴って発生する、修復パッチ埋植部の狭窄や、長期間の留置による修復パッチの劣化や石灰化への対応が重要になっています。
(3)このような医療ニーズに応えるため、「心・血管修復パッチ OFT-G1」は、大阪医科薬科大学と福井経編興業が共同で取り組んでいた医療材料の研究に、医療機器の研究開発技術を持ち、福井経編興業と長い取引の歴史がある帝人が参画する形で開発を進めてきました。

2.「心・血管修復パッチ OFT—G1」について

(1)「心・血管修復パッチ OFT-G1」は、大阪医科薬科大学の心臓血管手術に関する豊富な知見と、福井経編興業の優れた経編技術、帝人のポリマーを用いた製品設計技術および医療機器の開発ノウハウを組み合わせて創出された医療材料です。
(2)本材は、吸収性の糸と非吸収性の糸から構成される編物に、吸収性の架橋ゼラチン膜を施したシート状の構造を持っています。手術により埋め込まれた後、ゼラチン膜が経時的に分解されて材料の一部が自己組織と一体化し、吸収性糸が分解されることで伸長が可能となり、組織の成長を阻害しないことから、先天性心疾患患者さんの成長に伴って発生する狭窄や劣化・石灰化による再手術のリスクが低減され、患者さんやその家族の身体的・経済的な負担を軽減することが期待されます。
(3)本材は、日本発の世界最先端の治療を早期に提供できるよう、様々な支援を受けて開発を進めており、2017年度から3年間、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の医工連携事業化推進事業「術後のQOLを改善させる心・血管修復シートの事業化」として支援を受けました。また、2018年4月には、厚生労働省より「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されています。

埋植した「OFT-G1」(イメージ画像)        埋植した「OFT-G1」(イメージ画像)

3.臨床試験の結果について

(1)2019年5月に開始した「心・血管修復パッチ OFT-G1」の臨床試験は、0歳児から成人までの幅広い年齢層で、さまざまな先天性心疾患患者を対象に実施し、2022年4月に解析が完了しました。
(2)臨床試験のデータの解析結果として、有効性の主要評価項目である手術から1年後時点における手術成功率(*)の目標を達成することができました。
  (*)手術成功:OFT-G1を原因とする死亡、再手術、再治療介入がいずれもないこと

大阪医科薬科大学、福井経編興業、帝人の3者は、今回の結果をもとに「心・血管修復パッチ OFT-G1」の国内における承認申請および上市を目指すとともに、将来的には本材の適応拡大や、海外での事業化も検討していきます。そして、今後も医療機器開発を通じて、先天性心疾患の患者さんの治療およびQOL(Quality of Life)向上に貢献していきます。

関連リンク