小児心臓血管外科

内容

1、小児先天性心疾患治療における私たちの基本理念

小児先天性心疾患治療における私たちの基本理念先天性心疾患の原因はごく稀な遺伝的素因を除外すると、この科学万能な時代になっても全くというほど明らかにされておらず、今のところ“偶然”と考えられるものが大多数を占めると考えられています。ですので、お母さんとお父さん、そしてお二人から生まれてきたお子さんの誰が悪いわけではなく、たまたま先天性の心奇形を持ってしまっただけのお子さんでありかけがえのない存在であることに変わりはありません。

現実として目の前のお子さんの持つ先天性の心疾患にしっかり向き合い、理解し、症状や将来の危険性を取り除き、大事なお子さんをしっかりと育んであげることがお母さん、お父さんの役割ではないでしょうか 。

我々はお母さんとお父さんの側に立ち、お子さんの命と成長に全責任を負わなければならないお母さんとお父さんに代わって医療部分を担当しているという自覚を持ち、“家族を中心としたチーム医療の一員であること”を心がけています。

笑顔での対応と対話を通した家庭的雰囲気の中で、皆様にご満足して頂ける様、きめ細かな対応に心がけております。

2、当科の特色と理念

当科の特色と理念当科の小児心臓血管外科チームは、北大阪地区約174万の人口のうち約40万の子供たちと年間約2万の新しく誕生する命のゴールキーパーとしての役割を担う必要があると考えています。目的は一つ“子供たちを元気にするためお母さん、お父さんと一緒に頑張ること”です。お子さんやご家族へのきめ細かな対応と家族的雰囲気の中で以下のことを特色とし日々の診療を行っています。

  • 徹底的な説明(インフォームドコンセント)と相談の受付けを随時行います
  • 小児科心臓チームと小児心臓外科チームが一緒に毎日診察、治療にあたります
  • 集中治療室や病室ではお子さんが心地よい鎮静、鎮痛が得られるように努めます
  • 術後にも肺高血圧症が残ってしまった場合に、数々の新しい薬剤を使った治療を展開しています
  • 大事なお子さんを気遣うお母さん、お父さんが周りを気にせずに一緒に療養していただくことを重視し、積極的に個室を利用します(ただし、部屋数に限りがあります)
  • 術後は地元の掛かりつけまたは紹介元の小児科医と当院小児科、心臓外科が密接に連絡をとることでお子さんの経過観察を継続します
  • 大阪府新生児診療相互援助システム(NMCS)および大阪府母体救急搬送システム(OGCS)に参加しています
  • ダウン症をはじめとするハンディキャップのあるお子様にも積極的に関わり発達支援も大きな目標とし当院LDセンターや地域療育施設との連携を図っています
  • 北大阪地域の一般病院や開業されている小児科医、心臓内科医、そして産科医の先生方との勉強会を開催し、地域医療の向上に努めます(北大阪先天性心疾患フォーラム及び”NOAH’S perinatal project”や各種カンファレンスの定期開催)
  • 診療時間外であっても、何時でもご相談を受け付けています

心臓の病を持ってしまった大事なお子さんたちの“かかりつけの心臓のお医者さん”になれるよう小児科心臓専門医師、心臓外科医師共々努力して参ります。いつでもお気軽にご連絡を!

ホットライン
またはお電話で
  • 大阪医科大学(代表):072−683-1221
  • 心臓血管外科:根本慎太郎、小澤英樹
  • 周産期センター直通:072-684-7142
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3、診療スタッフおよびチームとしての関連各科の紹介

診療スタッフおよびチームとしての関連各科の紹介当院では新生児から成人先天性心疾患に至る幅広い年齢層を対象としています。国内外の先天性心疾患治療専門施設での臨床修練と基礎研究を通して研鑽したスタッフが軸となり外科医だけでなく小児科医、麻酔科医、集中治療医、周産期医の各専門医グループと体外循環専門技師、集中治療室から一般病棟にいたる専門看護師がチームを組み診療に当たっております。

手術前からのカンファレンスによる十分な検討から、術中、術後に渡りチーム一丸となって最善の治療を心がけております。

また総合病院の特色を最大限に利用し、全身すべての臓器の診断、治療が可能です。まさかの合併症対策に備えております。加えて模型人工肺(ECMO)、一酸化窒素吸入装置や腹膜透析システムなどの最新設備を整えています。

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4、外来から入院、手術、そして退院から外来への流れ

a、紹介で外来から入院する流れ

紹介で外来から入院する流れ開業医(小児科、産科、内科)の先生および一般病院から紹介された、または学校検診で精密検査を受けるように告げられた場合は、まず当院小児科循環器専門外来(月曜日、水曜日、そして木曜日等の臨時日)を受診していただきます。詳しい検査(心臓カテーテル検査など)が必要とされた場合は後日小児科に入院していただきます。

その結果について小児科担当医がご報告し、手術が必要と判断された場合は小児心臓外科医より手術の方法や危険性などについての説明があり退院となります。手術の必要性をご理解いただきかつお受けになる決心がつきましたら、手術日の予約をとり、後日あらためて心臓血管外科に入院となります。

手術前には手術が安全に受けられることを確認する検査をし、もう一度担当する小児心臓血管外科医そして担当麻酔科医から詳しい説明があります。手術室にお子さんが移動する前には、軽い鎮静がなされます。手術室に到着後は、すみやかにお子さんにお眠りいただきます。全身麻酔で必要な気管チューブ(人工呼吸器による呼吸補助のため)と必要な中心静脈カテーテル(大事な強心剤の投与に使い、また心内圧力の持続監視に使用します)を挿入し、手術が開始されます。個々の手術の詳細については疾患により異なりますのでそれぞれの疾患の説明をご覧ください。

手術終了後は、お子さんは眠った状態で集中治療室に運ばれます。人工呼吸器や点滴、ドレーンチューブ(心臓の周りに溜まる出血や浸出液を取り出し、心臓への圧迫を予防するための管)の接続などが済み、状態が落ち着いたところでお母さん、お父さんにご面会いただきます。この時点ではお子さんは眠った状態ですが、出血や心拍出に問題がないことを確認してから、徐々に眠りを覚ましていきます。お子さんが十分に自分の力で呼吸ができることを確認して気管チューブを抜きます。また、心臓の拍出の良好な回復を確認し、強心剤の投与を漸次減らしていきます。また、ドレーンチューブからの排出が少なくなった時点でこれを抜きます(時に手術の違いにより長く留置する場合があります)。

更にお子さんの全身状態の改善が得られた時点で一般病室へ戻ることになります。疾患や手術の違いにより集中治療室滞在日数は違いますが、おおむね2泊から7泊です。このお子さんにとってお母さん、お父さんから離れてしまう集中治療室滞在中は、適度な鎮静によって少しでも苦痛が和らぐように努めています。また、特別な状態の悪化などがない場合はお子さんが病室に戻られるまでお母さん、お父さんはお家にお帰りいただきます。なお、集中治療室でのお子さんとのご面会は集中治療室入室の規則がございますので、後日ご案内申し上げます。お子さんが病室に戻られると、食事や離床のリハビリテーションが始められます。ぜひお子さんを勇気づけてあげてください。病室に戻ってから何も問題がない場合は通常2−5日後に心エコーを始めとする各種の検査を行います。この検査の結果が良好な場合に退院となります。勿論もう少し入院して治療を継続したり、様子を見ることもあります。

退院後は、当院小児科循環器グループ(前出)と小児心臓血管外科(水曜日)が連絡を取り合いお子さんの術後の経過を外来にて診察していきます。術後時期が経ち安定した心臓の状態がえられれば地元のかかりつけの医師に戻ります。その際にかかりつけ医師に私たちから詳細な報告をおくります。手術の前、中、後にわたって小児科循環器チームと小児心臓外科医が一緒になって常時お子さんの治療に当たります。

b、周産期センターからの流れ

周産期センターからの流れ妊娠中の胎児エコーにより大事な赤ちゃんに心奇形が発見され、当院産科に精密検査のため紹介された場合には、当院小児科循環器チームがさらなる確定診断を行い治療方針をふくめた詳細な報告がなされます。疾患の重篤性や緊急的手術の必要性がある場合は予定帝王切開が必要となることがあります。お産の後に赤ちゃんは周産期センターに入院します。

また、お産の直後または1ヶ月検診までの間に赤ちゃんに心雑音や心奇形が発見された場合に、より詳しい検査と治療のために当院を紹介され周産期センターに搬送される場合があります。いずれの場合も周産期専門チームと小児科循環器チームで赤ちゃんの集中治療と詳細な検査がなされます。

手術が必要と判断された場合には小児心臓外科医も含め治療方針が検討され、お母さん、お父さんにご報告がなされます。手術の方法と危険性をご理解していただきかつお受けになる決心がつきましたら、お子さんはそのまま周産期センターから手術に向かいます。手術を急ぐ必要がなく状態が落ち着いていれば退院となり、後日手術のために入院となります。手術からの流れは上記aと同じですが、とても小さな赤ちゃんの場合は手術後に周産期センターに戻って治療を継続する場合があります。
当院は大阪府新生児診療相互援助システム(NMCS)および大阪府母体救急搬送システム(OGCS)に参加しており、常時入院に対応しております。

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5、体外循環(人工心肺)について

体外循環(人工心肺)についてこではお子さんの心臓手術に先立ち、人工心肺についての説明を概略して示しますが、理解しにくいことがあれば主治医、手術担当医にお気軽に質問してください。

ここでは、よくお寄せいただく質問に対する説明として解説します。おそらくお母さん、お父さんで体外循環または人工心肺についてお聞きになったことがある方、または少しは知っていますという方がおられると思います。

以下にお子さんの心臓手術に必要な体外循環のもう少し踏み込んだ知識を提供することで、心臓手術をより良く理解していただくためにお役にたてればと考えています。ご家族ばかりでなくご親戚のご理解にも役立ち、またお子さんが手術後に大きくなられてから興味を持った時にも役立てられたら幸いです。

a、人工心肺はどんな役割をするの?どうして必要なの?

小児心臓外科医が実際にお子さんの心臓の中を修復する時には、心臓の中は血液が無く空っぽである必要があり、更に多くの場合はしばらくの間心臓が止まっている必要があります。このためには、短時間であれ血液がいつものように心臓と肺に血液が循環していては手術ができません。心臓外科医がベストコンディションで手術ができるために、どうしても心臓と肺の血液の循環を止める必要があります。心臓と肺がその働きを休ませている間に、体外循環(人工心肺)が代わりに身体の循環をします。

b、人工心肺は具体的にどんなことをしているの?

体外循環の器械は以下の働きのためとても精巧に作られています。
心臓の働きに代わり血液を身体に循環させます肺の働きに代わり、血液に酸素を送り込み、二酸化炭素を取り出します

c、人工心肺は実際どうなっているの?

体外循環の器械はいくつかの精巧なローラーポンプによって構成されています。また、体温を調節する熱交換器や人工肺への酸素供給やお子さんの体温をモニターし調節するマイクロプロセッサーが組み込まれています。その他各種アラームを使って安全監視を行っています。
ポンプは心臓に代わって働き、血液を人工肺を通してお子さんの身体に戻します。

d、基本的にはポンプという器械であることは分かったけれど、どんなもので構成されているの?

ポンプを搭載した機械とは別に、ディスポーザブル(一回使い捨て)の体外循環回路と人工肺を使用します。人工肺はお子さんの肺と同じ働きをします。人工肺を通る間に血液に酸素が加えられ、二酸化炭素が取り除かれ、酸素、二酸化炭素ともに適正な状態に維持されます。人工肺には熱交換器が組み込まれており、血液の温度、ひいてはお子さんの体温を調節できるようになっています。体外循環の回路は医療用の特別に作られたプラスチックのチューブです。この回路を通って血液がお子さんから人工心肺に導かれ、再びお子さんの身体に戻されます。回路には血液フィルターが組み込まれています。この回路は不必要に長くせずに、手術台の近くに体外循環の器械が位置できるようにデザインされています。この回路は、プラスチックでできたカニューレを介してお子さんに繋がります。このカニューレは手術の始めに心臓に近い大静脈と大動脈に心臓外科医が挿入し、手術終了時に抜去されます。

基本的にはポンプという器械であることは分かったけれど、どんなもので構成されているの?

e、人工心肺に繋がるとどんなことが起こるの?

準備段階でこのチューブによる回路は充填液という特別な点滴で満たされます。この充填液で回路、人工肺、そして血液フィルターから空気を取り除きます。この充填液に輸血を混ぜることがあります。お子さんの体重が少なく、体外循環回路を満たした点滴で血液が薄まり、著しい貧血になる場合に輸血の使用が考慮されます。体外循環の安全性を考慮するとおおむね体重10Kg以下のお子さんには輸血が必要となることが多いようです。勿論輸血をなるべく使用しない努力を続けていますが、最近では無理をして無輸血で体外循環を行う是非も問われており、お子さん一人一人に合わせた安全性を第一に考えております。体外循環中はお子さんの体温を調節できるようになっています。殆どの手術では、お子さんの体温を下げることで身体の重要臓器の酸素の消費を少なくし、臓器を保護します。手術の種類やお子さんの状態に応じてどれだけ体温を下げるかを決定し、人工肺に組み込まれた熱交換器により回路を流れる血液の温度を調整します。体外循環終了にあわせてお子さんの体温を正常にまで戻します。

f、人工心肺はどんな役割をするの?どうして必要なの?

人工心肺はどんな役割をするの?どうして必要なの?特別に修練を積んだ体外循環技師が操作します。体外循環技師は心臓手術チームの一員であり、体外循環の器械操作に責任を持っています。また、どういった回路や人工肺を使うかの選択と設定にも責務を果たしています。体外循環技師は心臓外科医と麻酔科医と共に働き、体外循環科学(人工の血液循環における生理学、生化学)について特殊な修練を積んだ科学者でもあります。すべての体外循環技師は国家資格を持っており日々研鑽を続けています。

g、体外循環技師は体外循環中のわが子の血液の循環の状態をどうやって把握しているの?

体外循環技師は体外循環中のわが子の血液の循環の状態をどうやって把握しているの?上にマイクロプロセッサーについて述べましたが、これは回路の血液温度や圧力の調整を表示しかつ手助けをします。そのほかに血液内の酸素の量を持続的に表示するモニターなどもあります。体外循環技師は定期的に回路の血液を検査し、結果をチェックしながら重要な電解質イオンを調整したり血液が回路のなかで固まってしまわないように調整したりします。

お子さんの心電図や血圧は、体外循環器械に組み込まれたテレビのようなモニターに連続して表示されます。全ての回路やモニター類を組んだ姿は飛行機の操縦席のようになります。外科医が全ての手術操作を終了し、お子さんの心臓と肺が人工心肺の助けなしに十分力強く働いているとチームの皆が判断した時に、体外循環技師はゆっくりと体外循環を止めます。そして、外科医は大静脈と大動脈に入っていたカニューレの全てを抜きます。当院では熟練した体外循環技師が成人の心臓手術も含め年間200以上の体外循環を操作しています。

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6、それぞれの疾患の説明

狭心症、心筋梗塞、弁膜症そして大動脈瘤などの成人の心疾患にくらべて、小児心疾患は様々な欠損、低形成、左右の血管や心室が入れ違っているなどの解剖と程度が複雑に組み合わさるため、一人一人のお子さんで違った病態を形成します。その違いに対応するため治療方法も変化させますが、最も重要なことはその子その子に応じた最適な治療法を考えることです。以下に主な疾患についてご説明申し上げますが、お子さんに最も適する治療法については、当院小児科循環器専門外来または心臓血管外科先天性心疾患専門外来を受診の際に担当医師に直接お尋ねくださるか、または先天性心疾患ホットラインEメールを設けますのでセカンドオピニオンも含めてご連絡ください。また、疾患のより良いご理解のため正常の心臓の項目をご一読の後にそれぞれの疾患の項目をご覧ください。メルボルン王立小児病院(オーストラリア)小児循環器医JL Wilkinson教授が作成された疾患案内を、許可を得て日本語に翻訳した内容に我が国の実情を加味して作成しました。

目次
a. 正常の心臓 q. 心室中隔欠損と肺動脈狭窄を合併した完全大血管転移症:TGA, VSD, PS
b. 心房中隔欠損症(2次孔欠損):ASD r. 三尖弁閉鎖症:TA
c. 心房中隔欠損症(1次孔欠損、不完全心内膜欠損症) s. 総動脈幹症:PTA
d. 心室中隔欠損症(小さいもの):VSD t. 総肺静脈還流異常症:TAPVD
e. 心室中隔欠損症(大きいもの) u. 大動脈縮窄症:CoA
f. 心室中隔欠損症に大動脈弁逸脱が合併したもの v. 大動脈離断症:IAA
g. 完全型心内膜欠損症:AVSD, ECD w. 左心低形成症候群:HLHS
h. ファロー四徴症:TOF x. 大動脈弁狭窄症:AS
i. 肺動脈弁欠損症 y. 大動脈弁下狭窄症:SAS
j. 心室中隔欠損を合併した肺動脈閉鎖症(極型ファロー四徴症):PA,VSD z. 大動脈弁閉鎖不全症:AR
k. 心室中隔欠損と主体肺側副動脈を合併した肺動脈閉鎖症:PA, VSD with MAPCA aa. フォンタン手術
l. 動脈管開存症:PDA bb. 左室性単心室症:DILV
m. 純型肺動脈弁閉鎖症(心室中隔に欠損はない):PA, IVS cc. 両大血管右室起始症:DORV
n. 肺動脈狭窄症:PS dd. 修正大血管転移症:cTGA
o. 完全大血管転移症:TGA
p. 心室中隔欠損を合併した完全大血管転移症:TGA,VSD このページのトップへ↑

7、肺高血圧症について

肺高血圧症について肺への血流が著しく増加している場合や、肺の静脈の心臓への還流が閉塞している場合に肺動脈の血圧が上昇(肺高血圧)しています。手術の前にこのような状態であると、手術後に様々な刺激によって肺の細い動脈(肺の中の末梢の血管)が簡単に痙攣を起こし、その血管の断面積が細くなりやすく(血管の抵抗が増加する)なります。また、体外循環(人工心肺)、さまざまな薬、そして手術のストレスの影響で、血管をリラックスさせる物質の生産が減ったり、逆に血管を収縮させてしまう物質の生産が増えていることがこの痙攣の原因です。この痙攣がひどい状態を肺高血圧クライシス(重症発作)と呼んでおり、肺に血液が流れない状態となります。

結果的に肺での血液への酸素の取り込みが悪くなり、また肺から心臓への血液の戻りがなくなり心拍出がとても減少してしまい、いずれも命の危険に結びついてしまいます。予防のためには心臓の状態を良好に保つことが第一に大切ですが、適切な鎮静と呼吸状態の調節も大切です。私たちはこの鎮静(お子さんのストレスを除きながら気持ちよく寝てもらいます)を大事と考え、新しいお薬を使った積極的な方法を導入しています。勿論痛みを取り除く努力も併せて行っています。

また、いったんこの肺高血圧の重症発作が起きてしまった場合には、様々な血管を拡げるお薬(血管拡張剤)による治療をします。ニトログリセリンやプロスタグランジンE1という第一世代の血管拡張剤が広く使われていますが、効果が無い場合は一酸化窒素(NO)ガスの吸入が開始されます。このNOガス吸入の効果はとても良好で、術後に発生する肺高血圧の治療を劇的に改善しました。しかし、空気中に漏れたNOガスは光化学オキシダント(車の排気ガスに近いものです)になってしまうため、お子さんは常に特殊な回路を組み込んだ人工呼吸器に繋がっていてもらう必要があります。危険性としてはNOガスは血液の中の酸素を運ぶヘモグロビンというたんぱく質に影響を与えてしまうこと、そしてNOガスを中止した後に肺高血圧発作が再び現れる(リバウンド:再び心臓と肺が危険にさらされます)ことがあり、結果的にNOガスを気管チューブをいれたままで長く吸入していることがあげられます。

私たちは近年シルデナフィルという新しい血管拡張薬と、ボセンタンという血管収縮物質の働きを遮断する2つのお薬を国内では先駆的にこの領域で使い始めました。どちらも実験的なお薬ではなく既に市販されているものです。上手にNOガスと組み合わせることで、現在良い治療結果を得ることが出来始めました。今ではこの効果は医学学会や医学論文で数多く報告されるようになりました。これからはもっと多くのお子さんの治療のデータを集積しながら科学的にその効果を検証して、新しい治療法として確実にしていきたいと考えています。また、動物実験を通して新しい治療法の研究と開発を行っています。

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8、参考になるリンク