CRTとは

心臓再同期療法(CRT)を受けられる患者さんへ

心臓再同期療法(CRT)って、何?

心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy, CRT)とは重症心不全に対する新しいペースメーカー療法で、ペースメーカーを使って心臓のポンプ機能の改善をはかる治療方法です。本来のペースメーカーの治療は脈拍の遅い病気をもった患者さんに対して行う治療方法ですが、心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy, CRT)は脈拍の遅い患者さんに対する治療法ではなく、心臓のポンプ機能(特に左心室)に何らかの障害をもった患者さんに対するペースメーカー療法です。

心臓には4つの部屋(右心房、左心房、右心室、左心室)があり、ある特殊な電気信号が心房から心室に伝わることで心臓は拍動します。健康な心臓は十分な血液を全身に送り出せるようにこの電気信号を順序よく心房から心室へ伝えています。しかし心臓(特に心室)に何らかの障害が起こるとこの電気信号の伝わり方にずれが発生することがあります。

本来心室においてはこの電気信号は右心室と左心室に同時に伝わり、左右両方の心室が均等な動きをしますが、障害によって電気信号が早く伝わる部分と遅く伝わる部分ができて、心室が均等な動きをしなくなります。

これを心室の同期障害といいます。もともとの心臓の動きが正常より悪く、この心室の同期障害が加わるとさらに悪化して心不全の状態を引き起こします。このような状態のときにペースメーカーを用いて心臓に伝わる電気信号の順序を整えてポンプ機能を助ける治療法が心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy, CRT)で、通称両心室ペーシングやCRTとも呼ばれています。

この治療法は、欧米では1990年頃から行われていましたが、日本では2004年4月1日から保険で認可され行うことができるようになりました。しかしすべての心不全の患者さんに当てはまるものではなく、どこの病院でもできるものではありません。厚生労働省が認可した施設でできる治療法です。当院はこの認可施設となっています。

心臓再同期療法(CRT)が勧められる状態は?

心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy, CRT)はすべての心不全に対して効果のある治療法ではありません。心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy, CRT)が勧められる状態の心不全に対してこの治療法を行っても心機能の改善が認められる患者さんは約70%と言われています。

つまり残りの30%の患者さんは、心臓再同期療法を行っても心機能が改善していないという事です。そこで今までの数々の治療データ等から割り出した心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy, CRT)が勧められる状態は以下の条件をすべて満たす状態の方となっています。しかし条件をすべて満たしても治療効果が出ないこともあります。

  • 中等度〜重度の心不全(NYHAクラスV〜W)
  • 心臓のポンプ機能が非常に低下している状態(左室駆出率35%以下:正常は55%以上)
  • 心室の同期障害のある状態
  • いろんな薬剤で治療していても心不全が改善しない状態

NYHA心機能分類

クラスI
日常の労作で症状は出ない。心不全であることを自覚していない人もいる。
クラスII
階段や坂道など比較的強い労作で症状が出る。
クラスIII
新聞を取りに行くなどの簡単な労作でも症状が出る。
クラスIV
動くだけで症状が出る。安静にしていても心不全の症状があり、動くとさらに悪化する。

心臓再同期療法(CRT)で期待できる効果は?

心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy, CRT)を行う場合は、基本的には薬物療法も併用します。効果はそれぞれの患者さんによって違いがありますが、体を動かしたときのしんどさや息切れなどが改善され、生活の活動範囲が広がり、生活の質が向上するという効果が期待できます。

心臓再同期療法(CRT)の方法は?

(1)胸部に植込む方法
胸部に植込む方法通常のペースメーカー植込みと同様に、部分麻酔(局所麻酔)で手術を行います。ペースメーカーが植込まれる場所は、左あるいは右の鎖骨の下の胸の部分です。リード線は、鎖骨の下へ走っていく静脈に沿ってレントゲンのテレビを見ながら心臓の中に3本のリード線を挿入し、2本は心臓の内壁(右心房・右心室)に接触固定します。
3本目のリード線は、右心房に合流している冠状静脈洞という心臓の表面を走っている冠状静脈の合流する静脈にリード線を挿入して、この冠状静脈の中にリード線を這わせながら左心室の表面を走る冠状静脈にリード線を挿入しこの静脈内に留置します。
(2)腹部に植込む方法
全身麻酔を施し、胸を開けて(開胸手術)心臓の右心房、右心室、左心室の外側の壁にリード線を取り付けます。ペースメーカーは左上の腹部に植込みます。他の心臓手術と同時にも施行可能です。
胸部に植込む方法を行った場合
3本目のリード線が冠状静脈の中にうまく挿入できるかどうかで手術の成功不成功が決まります。しかも冠状静脈の走行に異常があったりすると3本目のリード線の挿入に時間がかかり、結果として全体の手術時間がかなり長くなったりします。また目的とする冠状静脈にリード線が挿入できない場合や、目的とする冠状静脈がない場合は、手術が完了できない場合があります。そこで我々は、冠状静脈の状況に左右されることなく確実に手術を完了できる方法を行っています。
冠状静脈の走行や径に左右されない方法とは?
冠状静脈の走行や径に左右されない方法とは?冠状静脈の走行や径に左右されないで左心室にリード線を植込むためには、直接心臓の外の壁にリード線を逢着するだけでOKです。当科では右心房および右心室にリード線を植え込み、左胸部にペースメーカーを植込む方法と組み合わせて、左胸に小切開を加えて開胸しリード線を左心室の外壁に逢着し、このリード線を左の胸部のペースメーカーを植込む部位に誘導し、CRT専用のペースメーカーに接続する手術方法を行っています。また通常の心臓手術の際にもCRTが必要な患者さんに対しては右心房、右心室、左心室の外壁にリード線を逢着しCRT専用ペースメーカーを腹部に植込んでいます。なおこの方法は全身麻酔が必要で、すべての患者さんに行える方法ではありません。

心不全患者さんに起こる突然死を予防する方法(CRT-D)とは?

心不全の患者さんの中には心室の同期障害だけではなく心室頻拍や心室細動といった致死的な不整脈を起こし突然死の危険性を有する患者さんがおられます。そのような患者さんにはどちらも治療できる「CRT-D(両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器)治療」を行うことがあります。

CRT−Dは、心室の同期障害を改善する心臓再同期療法(CRT)と、致死的不整脈による突然死を予防するICD(植込み型除細動器)療法の両方の機能をもった治療機器です。

植込み方法はCRTと同じですが、右心室には除細動専用のリード線を植込みます。

CRT-Dが勧められる状態は?

  • 中等度〜重度の心不全(NYHAクラスV〜W)
  • 心臓のポンプ機能が非常に低下している状態(左室駆出率35%以下:正常は55%以上)
  • 心室の同期障害のある状態
  • いろんな薬剤で治療していても心不全が改善しない状態
  • 致死的不整脈を有する方。もしくは検査によって致死的不整脈が発見された方

CRT-D治療を行うかどうかは、最終的には医師の判断となります。

参考になるホームページ:心不全.com http://www.shinfuzen.com/index.html