肺がん

肺がんの統計

肺がんになる人は世界的に増加傾向にあります。わが国の肺癌の死亡は、1998年に胃癌を抜いて臓器別癌死亡原因の第1位となり、今後ますます増加することが予想されています。しかしながら、肺癌の治療成績は不良であり、全体の5年生存率(治療開始から5年間生存している割合)は20%未満です。手術ができれば40%近くは5年間生存することが出来ますが、手術の対象になる症例は全体の40%に満たず、残りの60%以上は切除不能の進行癌で見つかることが多いです。

肺がんの組織分類

肺がんは、顕微鏡で細胞がどのように見えるかによって非小細胞(ひしょうさいぼう)肺がんおよび小細胞肺がんに分けられます。非小細胞肺がんは、さらに腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、腺扁平上皮がんなどの組織型に分類されます。

扁平上皮がんは扁平上皮細胞から始まるがんです。魚のうろこのように薄く平らな細胞で、皮ふの表面、および呼吸および消化管の通路を形成する組織に発見されます。気管支が肺に入った近くに発生する肺門型と呼ばれるがんの頻度が、腺がんに比べて高くなります。

腺がんは胃腸や肺などの臓器の内側に並ぶ細胞から始まるがんです。通常の胸部の写真で発見されやすい「肺野型」と呼ばれる肺の末梢に発生するのがほとんどです。

大細胞がんは顕微鏡で見ると細胞が大きく見える肺がんです。
小細胞肺がんは、非小細胞肺がんより頻度は少ないです。小細胞肺がんは急速に成長し、体の他の器官に広がり易いです。

肺がんの症状

がんの大きさが小さな時はほぼ無症状で経過するため、健診などで発見された方は症状を認めないことがほとんどです。がんがある程度大きくなると全身症状として他のがんと同様に体重減少、倦怠感、食欲不振などがみられます。呼吸器症状としては、なかなか治りにくい咳や胸痛、呼吸時のぜーぜー音(喘鳴:ぜいめい)、息切れ、血痰、声のかれ(嗄声:させい)、顔や首のむくみなどが一般的症状です。

また、転移病巣の症状、例えば脳転移による頭痛、骨転移による腰痛などの骨の痛みなどが最初の症状である場合もあります。また、胸痛があらわれることもありますが、これは肺がんが胸壁を侵したり、胸水がたまったりするためです。その他、肩こり、肩痛、背中の上部痛、肩から上腕にかけての痛みもまれにあります。

肺がんの診断

咳、痰などの症状がある場合、最初に胸のレントゲン検査をします。次にがんかどうか、あるいはどのタイプの肺がんかを顕微鏡で調べるため、肺から細胞を集めます。通常は痰の中の細胞検査をします。

a,気管支鏡検査
気管支鏡は口あるいは鼻から通常70cm程の長さの内視鏡を挿入し、咽頭・喉頭・声帯を経由して気管・気管支の病変を見つけようとする検査です。まず検査に先だって、検査による喉や気管の痛みを軽減するため、口腔の奥まで局所麻酔を行います。その後に太さ5〜6mmの気管支鏡を使って気管支の壁から細胞の一部をとり、標本をつくって顕微鏡でがん細胞があるかどうか検査します。これを生検と呼びます。検査時間は約20分です。
b,CTガイド下肺針生検
コンピューターを使ったX線写真(CT)で目標を定め、針を病巣に命中させ組織をとります。採取した細胞を顕微鏡で検査します。
c,その他
胸膜生検やリンパ節生検を行うこともありますが、これらの方法を用いても診断が困難な場合、外科的に組織を採取します。外科的な方法には、縦隔鏡検査、胸腔鏡検査、胸を開く方法(開胸)があります。いずれも全身麻酔が必要となります。
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病期(ステージ)

肺がんと診断されると、がんが肺から他の臓器に拡がっていないかどうか、さらに詳しい検査が必要になります。通常行われる検査は、脳のCT検査、胸のCT、腹部のCT、骨シンチグラフィ(ラジオアイソトープを使った全身の骨のレントゲン検査)。さらに最近は、感度と特異性の高いポジトロンCT(PET:ペット)と呼ばれる放射性同位元素を用いた検査が、がんの診断及び病気の拡がりの診断に用いられてきています。

非小細胞肺がん

がん病巣の拡がりぐあいで病気の進行を、I、II、III、IV期に分類します。

Ia期
がんが原発巣にとどまっており、大きさは3cm以下で、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階です。
Ib期
がんが原発巣にとどまっており、大きさは3cmを超え、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階です。
IIa期
原発巣のがんの大きさは3cm以下であり、がんが原発巣と同じ側の肺門のリンパ節に転移を認めますが、他の臓器には転移を認めない段階です。
IIb期
原発巣のがんの大きさは3cmを超え、がんが原発巣と同じ側の肺門のリンパ節に転移を認めますが、他の臓器には転移を認めない段階です。あるいは、原発巣のがんが肺をおおっている胸膜・胸壁に直接およんでいますが、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階です。
IIIa期
原発巣のがんが直接胸膜・胸壁に拡がっていますが、転移は原発巣と同じ側の肺門リンパ節まで、または縦隔と呼ばれる心臓や食道のある部分のリンパ節に転移していますが、他の臓器には転移を認めない段階です。
IIIb期
原発巣のがんが直接縦隔に拡がっていたり、胸膜へ転移をしたり(胸膜播種といいます)、胸水がたまっていたり、原発巣と反対側の縦隔、首のつけ根のリンパ節に転移していますが、他の臓器に転移を認めない段階です。
IV期
原発巣の他に、肺の他の場所、脳、肝臓、骨、副腎などの臓器に転移(遠隔転移)がある場合です。
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肺がんの治療

(1)外科療法
肺がんが早期の場合に行われます。手術方法としては、肺の患部を部分切除する場合、肺葉切除(右肺は上葉、中葉、下葉と分かれ、左肺は上葉、下葉と分かれていますが、そのひとつか2つを切除すること)する場合、片側の肺をすべて切除する場合があり、リンパ節にがんがあるかどうか確認するためにリンパ節切除(リンパ節郭清といいます)も行います。
非小細胞がんの場合、通常はI期からIIIa期の一部が手術の対象となりますが、心臓や肺の機能障害がある場合は手術ができないこともあります。小細胞がんの場合、I期などの極めて早期の場合のみが手術の対象となりますが、頻度的に極めて少ないばかりでなく、手術後に抗がん剤による化学療法が必要となります。
肺を切除した結果、息切れや、手術後半年〜1年間の創部痛を伴うことがあります。そのため手術後はライフスタイルをかえる必要のある場合がまれにあります。
(2)放射線療法
X線や他の高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺すものです。肺がんの場合、通常は身体の外から患部である肺やリンパ節に放射線を照射します。一般的に1日1回週5回照射し、5〜6週間の治療期間が必要です。
(3)抗がん剤による化学療法
化学療法は抗がん剤を静脈注射、点滴静脈注射、内服することにより、がん細胞を殺すことを目的とした治療法です。通常、投与された抗がん剤は、血液の中に入り、血流に乗って全身をめぐり、肺のみならず、肺の外に拡がったがん細胞にも効果が期待されます。
(4)その他
内視鏡治療(レーザー治療)や免疫療法なども試みられていますが十分な成績は認めていません。

生存率・予後

非小細胞肺がん

治療開始からの5年間生存する割合(5年生存率)は、がんの病期と全身状態により異なります。手術をした場合の5年生存率は、病期I期(Ia、Ib期):70%、II期(IIa、IIb期):50%、IIIa期:25%といわれています。手術が適切でないIII期で、放射線療法と化学療法の合併療法を受けた場合、2年生存率は30〜40%です。IV期で化学療法を受けた場合、1年生存率は30〜40%です
(引用:今日の診療 国立ガンセンター HP 肺癌治療ネット HP)