縦隔腫瘍

縦隔腫瘍とは?

縦隔とは左右の肺に囲まれた部分のことであり、心臓、食道、気管、気管支、大動脈や大静脈、胸腺、背骨、脊髄、神経などが含まれます。この縦隔内にあり、胸腺、リンパ腺、神経、迷入原始胚細胞を母地として発生する腫瘍および先天性嚢胞、胸腔内甲状腺腫のことを縦隔腫瘍といいます。

多い順に、胸腺腫・神経原性腫瘍・奇形腫でこの3種が全体の約65%を占めています。続いて先天性嚢腫、リンパ性腫瘍・縦隔甲状腺腫・その他となっています。また、縦隔を境する構造である骨(胸骨,脊椎,肋骨)、壁側胸膜、横隔膜などに由来する腫瘍や心大血管、食道、気管の病変、悪性腫瘍のリンパ節転移や縦隔への浸潤などの病変は、縦隔腫瘍には含めませんが、これらの疾患は、縦隔腫瘍との鑑別診断上重要となります。

縦隔は通常、前縦隔・中縦隔・後縦隔の3つの部位に分けられ、腫瘍によって出来やすい場所がある程度決まっています。

すなわち、どの部分に病変が存在するかにより、ある程度疾患の見当をつけることができます。しかし、同じ位置に存在する腫瘍の中でも良性腫瘍から極めて悪性度の高い腫瘍まで様々であり、その種類によって治療方針が異なります。

縦隔腫瘍の分類

前縦隔腫瘍

胸腺腫
胸腺上皮細胞およびリンパ球由来の腫瘍。縦隔腫瘍の中でもっとも頻度が高く、局在性および放射線感受性が高い。正岡病期分類(I、II、III、IVa、IVb期)やWHO分類(A、AB、B1、B2、B3、C)の結果をもとに治療方針が立てられます。
治療は原則として外科的切除です。多臓器浸潤が見られても浸潤臓器を合併切除することで良好な予後が得られることが多く、放射線治療や抗癌剤の使用などを併用することがあります。重症筋無力症などの自己免疫疾患を合併することもあります。
奇形腫
複数の胚葉、もしくは三胚葉性の成分からなる腫瘍であり、特に精巣や卵巣など生殖能を持つ組織から出現します。胸部の奇形腫は前縦隔に好発し、男児に多く見られます。症状は腫瘍増大に伴う圧迫症状ですが、悪性のものは肺や心嚢に浸潤し、呼吸困難や胸痛をもたらします。
単純写真やCTで腫瘍内部に石灰化や嚢胞形成をみ、特に歯牙が証明されれば奇形腫の診断が下せます。大部分は成熟奇形腫という良性腫瘍ですが、未熟奇形腫や悪性化奇形腫などの悪性腫瘍もあります。
縦隔内甲状腺腫
甲状腺腫の一部あるいは全部が縦隔内に位置するもの。一般に良性のものが多いが悪性もあり、増大すると気管を圧迫するため切除の適応となります。
胸腺癌
大部分は扁平上皮癌であり、早期より転移して予後不良です。

中縦隔腫瘍

先天性嚢腫
真の腫瘍ではなく一種の組織奇形であり、液成分を貯留する薄壁の腫瘍のことです。気管支嚢腫が最も多く、他に心膜嚢腫、食道嚢腫などがあります。自覚症状は乏しいが圧迫症状を呈することもあります。
悪性リンパ腫
根治目的の手術適応とはならず、組織学的確定診断の後に抗癌剤や放射線照射が行われます。

後縦隔腫瘍

神経原性腫瘍という神経線維や神経細胞から発生する腫瘍が大部分を占めます。成人では大部分が良性ですが、小児では悪性疾患である割合が高くなります。成人での代表的なものとして神経鞘腫、神経線維腫があります。

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縦隔腫瘍の診断

縦隔腫瘍の検査には胸部エックス線検査、胸部CT検査、胸部MRI検査、ペット(PET)検査、腫瘍マーカー検査があります。CTやMRIにより腫瘍内部の性状、隣接臓器との関係および浸潤の有無などが正確に把握できます。また、ガリウムシンチや採血で測定できる腫瘍マーカーからも有用な情報を得る事ができます。

確定診断には病理組織診断が必要となる場合があります。この場合はエコーまたはCTを用いた生検法、あるいは縦隔鏡を用いた生検法を用いる事があります。縱隔腫瘍の胚細胞腫瘍で上昇する腫瘍マーカーにはCEA、HCG、CA19-9、AFPなどがあります。

縦隔腫瘍の治療

縦隔腫瘍は、良性とされている腫瘍でも悪性変化、増大、破裂などの危険があるため、特別な理由がない限り、一般的には手術で切除しなくてはいけません。術前に正確な組織診断のつかない事も多く、診断と治療をかねた手術となってしまいます。術後に抗がん剤の注射や放射線療法などと組み合わせる場合もしばしばあります。

手術方法は、胸腔鏡手術、胸腔鏡補助手術、胸骨を縦に切開して左右に開く方法や肋骨の間を開く方法があります。

胸線腫症例

胸線腫症例