大動脈疾患

大動脈疾患

心臓から全身に血液を送り出す血管(動脈)で、体の中で最も太い血管です。横隔膜を境に胸部と腹部大動脈に分かれます。太さは、胸部大動脈で直径約25〜30mm、腹部大動脈で20〜25mmです。胸部大動脈はさらに上行、弓部、下行大動脈に分かれます。上行大動脈は心臓から頭の方向に向かって走行する部分、弓部大動脈は頭や両腕に血液を送り出す3本の枝を出す部分、下行大動脈は背中側を胸から横隔膜に向かって走行する部分を言います。

大動脈疾患の原因

動脈硬化(血管が硬くなる)、感染、炎症、先天性(生まれつき血管が弱い、マルファン症候群など)、外傷などが大動脈疾患の原因となります。

マルファン(Marfan)症候群について

大動脈や心臓弁の異常、骨格異常(長身、長く細い四肢、手指、漏斗胸、脊椎側彎など)、眼異常(水晶体脱臼など)を呈する先天性の病気です。その大多数は遺伝性であり、約2万人に1〜2人の発生といわれます。この病気の予後を決するのは、心臓血管系の異常であり、なかでも大動脈瘤、大動脈解離は突然死をおこす原因の筆頭に挙げられます。当科では、土曜日の動脈瘤専門外来でマルファン症候群の患者さんを定期的に検診し、大動脈瘤、心臓弁膜症の経過観察と、期を逸しない根治手術のタイミングを判定し、御説明申し上げ、多くのマルファン症候群の患者さんの社会復帰のお手伝いをさせていただいております。国内でも数少ない、体内の病んだ大動脈をすべて人工血管に取り替える手術などにも成功し、この病気の治療成績の向上に貢献しています。

特定非営利活動法人 日本マルファン協会JAMM

大動脈疾患の種類と症状

大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)

大動脈瘤大動脈が大きくなり瘤(こぶ)となった状態を大動脈瘤といいます。大動脈瘤の原因には動脈硬化、感染など様々な要因が関係しています。大動脈瘤はほとんど無症状で、検査(CT)で偶然見つかることが多い疾患です。胸部大動脈瘤では、声がかすれるといった症状が出現することがあります。これは大動脈瘤が声に関与する神経を圧迫するためです。

大動脈瘤また、腹部大動脈瘤では、お腹に拍動する腫瘤(しゅりゅう)を触れることがあります。直径が大きくなればなるほど破裂の危険性が高まります。破裂の前兆として、大動脈瘤の存在する部分(背中、腰など)で痛みが出現することがあります。

血管壁にかかる壁張力(壁にかかる緊張の強さ)は血管の直径の大きさと血圧に伴って強くなることがわかっていますので、大動脈瘤の直径が拡大すると破裂する危険性も高くなります。

胸部大動脈では直径6cm、腹部大動脈では直径5cmを超えると手術適応です。通常、直径が5cmを超える動脈瘤は、その年に10%以上の確率で破裂すると考えられています。急激に動脈瘤の直径が大きくなる場合、動脈瘤の形や発生した場所、そして大切な臓器の血流が問題となるなどの全身状態によっては、動脈瘤の直径が小さくても手術が必要となる場合があります。

大動脈破裂、破裂が疑われる場合、今にも破裂を起こしそうな場合には緊急手術が必要となります。

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大動脈解離(だいどうみゃくかいり)

大動脈解離大動脈の血管壁は、内膜、中膜、外膜の3層構造となっています。大動脈解離ではこの血管壁に亀裂が生じ、内膜から中膜の一部までが剥がれた(解離した)状態を言います。亀裂部から血液が血管壁に流れ込み、大動脈解離が広がっていきます。本来の血管腔を真腔、大動脈解離によってできた腔を偽腔と呼びます。大動脈解離が起こると偽腔が拡大し、胸部、腹部大動脈から枝分かれする動脈を圧迫し、大切な臓器への血流の障害(虚血)を引き起こすことがあります。慢性に経過すると解離によって弱くなった大動脈血管壁の部分が拡大し大動脈瘤を生じることがあります。

発症は突然で、通常、胸や背中の激痛を伴います。また解離の進展に伴って痛みが胸から背中などへ移動することがあります。発症時にショック状態、脳梗塞や心筋梗塞、腹部の内臓や手足の血流が途絶えることがあります。突然死の原因となる怖い疾患です。
一般的には、上行大動脈に解離がある場合(A型解離)は重症となり、緊急手術または準緊急手術の対象となります。

解離によって弱くなった大動脈を解離の始まりの部分から切除し、人工血管と交換します(置換)。下行大動脈、腹部大動脈にのみに解離がある場合は(B型解離)、まず解離を起こした直後は厳重な血圧管理を行いながら病状経過を観察し、慢性期に適応がある場合に手術を行うことがあります。ただし大動脈解離による臓器血流障害がある場合には緊急手術により血流改善を目的とした手術を行います。

大動脈狭窄(閉塞)(だいどうみゃくきょうさく(へいそく))

大動脈が途中で細くなったり、詰まったりする状態です。比較的稀な状態ですが、大動脈炎症候群(高安病)やベーチェット病などの血管に炎症を起こす病気を合併する患者様に起きることがあります。細くなった先への血流が少なくなるため、運動時の痛み(足の歩行時痛など)の原因となることがあります。CT撮影や血管造影検査などから大動脈、四肢末梢の動脈の状態を十分に調べて、炎症の状態(活動度)に応じて手術時期、手術方法を含めた治療方法の検討を行っています。

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検査

大動脈疾患を診断する上でもっとも簡単で重要な検査が、CT(Computed Tomography)と言われる検査です。これはX線を用いる検査で、体を輪切りにして内部の構造を観察することが出来る検査です。最近では立体の画像を作成することも可能で、より実際に近い評価が出来ます。血流の流れを観察する上では、造影剤を用いる必要があります。

治療法

(1)血圧の調節
降圧薬(血圧を下げる薬)により血圧を調節し、血管にかかる負担を低減します。しかし、根本的な治療にはなりません。
(2)手術

手術

a,人工血管置換術
大動脈瘤や狭窄した部分を取り除き、人工血管に換える方法です。手術は大きいですが、確実に治療可能な方法です。
b,ステントグラフト
血管内に折りたたんだ人工血管を挿入し、大動脈瘤の存在する部分で内側から拡げる方法。体への影響が少なく、高齢の患者さんや、大きな手術が耐えられない患者さんに良い方法です。しかし、現時点では長期成績が明らかでありません。今後の成績に期待されます。
  

当科における大動脈瘤、大動脈解離に対する外科治療の特徴

大動脈瘤はお薬による血圧の調節だけでは自然に治癒していくことはありません。大動脈瘤が破裂した場合は、死亡することも少なくありません。大動脈瘤、大動脈解離と診断された場合にはいずれも定期的に病変部や大切な臓器への血流に変化が無いか確認するためのCT検査が必要となります。当科では手術適応のある大動脈瘤、大動脈解離に対しては最も確実な治療である人工血管置換術を第一選択の治療であると考えております。

胸部大動脈瘤では体外循環を駆使した人工血管置換術も数多く行っております。最近では大動脈弁手術、僧帽弁手術、冠動脈バイパス術を同時に行う場合も増えてきております。大きな手術となりますので手術や体外循環に伴う危険性が少なからず存在しますが、臨床科学的実証に基づく独自の様々な経験的工夫から現在ではかなり安全に手術が行われております。