ICDとは

植込み型除細動器(ICD)手術を受けられる患者さんへ

植込み型除細動器(ICD)って、何?

植込み型除細動器(ICD)って、何?植込み型除細動器(ICD)は、命に関わる不整脈を治療するための体内植込み型装置です。

不整脈が起こらないように治療するものではなく、常に心臓の脈を監視し、命に関わる不整脈の発作が出た場合にすみやかに反応して、電気ショックを発生させてその不整脈を退治し、発作による突然死を防いでくれる装置で、一般的にICD(Implantable Cardioverter Defibrillator)と呼ばれています。

ICD本体とこれに接続した細い電線(リード線)で構成されたものでペースメーカーとよく似たものですが、使用目的と働きが違います。

電線の先を心臓に取り付けてICDの本体と電線を接続することで心臓の脈を監視し、命に関わる不整脈が起こった場合に本体からの電気刺激を心臓内に伝えることにより治療を行う仕組みになっています。

ICD本体の大きさは大体約70gぐらいで、手のひらに乗るサイズですが、ペースメーカーよりは大きいものです。

ICDの電池の寿命は、作動状況によって異なりますが、大体4〜5年ぐらいです。電池の寿命がくれば交換が必要となります。リード線が1本用のものと2本用のものがあります。

患者さんの不整脈の状態で使いわけをします。

植込み型除細動器(ICD)が必要な不整脈は?―心室細動と心室頻拍―

心室細動や心室頻拍という不整脈のときに除細動(電気ショック)が必要となります。一度心室細動が起こると、心臓のポンプ機能は停止して血液の流れが止まり、3〜5秒でめまいが起こり、5〜15秒で意識を失い、3〜5分続くと脳死の状態になるといわれています。

そしてこの不整脈の発作は突発的に起こるため突然死を引き起こします。心室細動がいったん起こると自然に回復することはほとんどなく、電気ショックを与える必要があります。また心室頻拍の場合は、心臓のポンプ機能が低下し、脳に送られる血液が減り、その結果めまいや失神を起こしたり、心不全の引き金になったり、心室頻拍に続いて、心室細動が起こる場合もあり、これも突然死を引き起こします。

この不整脈にも電気ショックを与える必要があります。電気ショックの装置はどこにでもあるものではないので、この不整脈を起こす危険性の高い人に植込み型除細動器(ICD)を植込みます。

※心室細動や心室頻拍についての詳しいことは「ハート先生心電図教室」へ

植込み型除細動器(ICD)が必要な不整脈は?―心室細動と心室頻拍―

心室細動や心室頻拍の原因となる心臓病には次の5つがあります。

  • 心筋梗塞:心筋に栄養や酸素を送っている冠動脈がつまってしまう病
  • 肥大型心筋症:心筋が肥大することによって心臓が十分に拡張できなくなる病気
  • 拡張型心筋症:心臓が拡張し収縮できなくなる病気
  • 不整脈源性右室異形成:右の心室の筋肉の一部が脂肪におきかわってしまう病気
  • 特発性心室細動(ブルガダ症候群など):心臓に異常がないのに突然心室細動を起こす病気

植込み前に必要な検査は?

心室頻拍や心室細動の状態を知るために必要な検査として電気生理検査があります。電極カテーテルという細い管を下肢の付け根や鎖骨の下や頸部にある静脈から心臓の中に入れて、心臓の中のいろいろな場所で心電図を記録しながら、心臓を電気的に刺激して不整脈について調べる検査です。

この検査によって、心室頻拍や心室細動が起こる部位を見つけることができ、治療法を決定することができます。検査は局所麻酔で行われ、レントゲンを用いて行われます。(なお、妊娠中の女性の場合は、この検査は受けられません。)

植込み型除細動器(ICD)植込み手術の方法は?

植込み型除細動器(ICD)植込み手術の方法は?鎖骨の下の胸部に植込みます。(図1)全身麻酔もしくは静脈注射で眠り薬を入れて眠っている間に手術を行います。手術にかかる時間は約3時間ほどです。皮膚を切開する長さは約5cmで、皮下に植込み型除細動器(ICD)が入るポケットを作ります。通常は左の鎖骨の下へ走っていく静脈に沿ってリード線をレントゲンのテレビを見ながら心臓の中に挿入し、心臓の内壁にリード線を接触固定します。

心臓側のリード線の反対側に植込み型除細動器(ICD)を接続し皮下のポケットにしまって、切開した皮膚を縫合します。最後に心室細動や心室頻拍を誘発し、植込んだ除細動器(ICD)でその不整脈を止めることができるかどうか試験します。不整脈が効果的に止まらないときは、静脈内にもう1本リード線を追加したり、皮下パッチといわれるパッチ型と電極を側胸部の皮下に追加します。

手術の合併症はまれですが、手術死亡、感染、血腫、血栓塞栓症、手術後心不全などの報告があります。

入院期間は?

入院期間は約10から14日間です。抜糸はだいたい手術から約7日ぐらいです。退院前にはもう一度頻拍を誘発させて、植込み型除細動器(ICD)が正常に作動するかどうか試験を行います。

【植込み型除細動器(ICD)の交換手術】
植込み型除細動器(ICD)の電池容量が減ってくると交換手術が必要となります。交換は植込み型除細動器(ICD)本体全部を交換します。交換時期は、植込み型除細動器(ICD)の作動回数や作動時に消費した電流によって異なるため個人差があります。
定期点検の際には電池容量の点検も行いますので、これによって交換の時期を判断します。手術時間は約1時間ほどです。入院期間も短期間で、大体数日から7日以内です。

退院後の生活は?

退院後は手術前と同じ生活が可能です。しかし日常生活のなかで植込み型除細動器(ICD)に影響を及ぼすものがありますので注意してください。植込み型除細動器(ICD)はペースメーカーと同様に外部からの電気や磁力に影響を受けることがあります。普通の家庭用の電化製品はおおむね大丈夫ですが、家庭、職場、また医療施設などで注意したほうがいいものや絶対に避けて欲しい機器や道具がいくつかあります。

簡単に表1と2にまとめてみましたので参考にしてください。携帯電話は22cm以上離れていれば安全です。もし異常を感じた場合はただちに離れてください。詳しくは担当医にご相談ください。

なおペースメーカーを植込まれた患者さんで、我々の指導に従って携帯電話を使用されている方もおられます。ペースメーカーの作動状況や電池の容量などの把握のために定期的な点検が必要です。

当科では3ヶ月ごとに(年4回)外来で定期点検を行っています。点検に要する時間は数分で体の外から点検できますので苦痛はありません。

【表1】日常生活や社会生活において
影響を受けないもの 影響が出ると思われるもの 影響を受ける物・場所
電子レンジ 電磁調理器 誘導溶解炉
電気毛布 IH炊飯器 レーダーアンテナ
電気コタツ 電気のこぎり・ドリルなど 放送所アンテナ
電気掃除機 高出力トランシーバー 不良電気器具
電気洗濯機 金属探知機 アーク溶接器・スポット溶接器
電気冷蔵庫 携帯電話※ 低周波治療器
電気かみそり 盗難防止装置※ 高周波治療器
電気マッサージ器 草刈機 発電設備
ヘアードライアー   大型モーター
テレビ   高電圧設備
ラジオ   強力な磁場の発生する場所
パソコン   自動車のエンジンルームを覗き込む
補聴器   全自動麻雀卓
自動車・電車・バイク   体脂肪計
    バイブレーター式のマッサージ椅子
【表2】医療機関での注意
影響がない機器・装置 影響を与える機器・装置
超音波診断装置 磁気共鳴診断装置(MRI)
ラジオアイソトープ診断装置 電気メス
心電計 除細動器
レントゲン撮影 ジアテルミー治療
  衝撃波破石装置
  通電鍼治療
  放射線療法
  X線CT
  歯根治療器
  歯髄診断機

入院手術にかかる費用は?

思ったほど費用はかかりません。植込み型除細動器(ICD)とリード線にかかる費用やそれ以外の入院費用や手術手技料を含めるとかなり高額な金額になります。しかし現在の医療保険制度では、高額医療費自己負担限度額があり、患者さんが負担する金額は、その方の所得やかかった医療費の金額によって異なります。

健康保険に加入されている場合は、高額療養費支給制度や還付制度があり、あとで自己負担限度額以上はかえってきますのでそれほど高額にはなりません。詳しくは病院の事務担当者にお聞きください。