機能改善

ヘルニア手術

鼠径部ヘルニア

鼠径部ヘルニアとは

鼠径部とは、足の付け根の部分を言います。そしてヘルニアとは、体の組織が本来の場所から脱出した状態のことをいいます。つまり、鼠径部ヘルニアとは、鼠径部の筋膜が弱くなって、その隙間から、腹膜が伸びて腸や脂肪の一部が脱出することを言います。

鼠径部ヘルニア
鼠径部ヘルニアの症状は?

立った時やお腹に力が入った時に膨らみを感じます。押さえたり、横になったりするとその膨らみは引っ込みます。そして膨らむ事で、不快感や違和感をきたすことがありますが、時には小腸が脱出することで、便秘や疼痛、また膀胱を圧迫することで頻尿などをきたすこともあります。ところが、抑えても引っ込まなくなって、急激な腹痛をきたすことがあります。それは、脱出した腸が戻らなくなった状態であり、「嵌頓」といいます。放置しておくと、腸が壊死してしまい、重篤な状態になり緊急手術が必要になります。

嵌頓状態

鼠径部ヘルニアの分類

  • 外鼠径ヘルニア
    鼠径管※という管を通り、外側から出てくるヘルニアで鼠径部ヘルニアの中で一番多いタイプです。男性に多い傾向があります。
  • 内鼠径ヘルニア
    鼠径管を通らずに、内側の筋膜が弱くなったところから出てくるタイプのヘルニアです。
  • 大腿ヘルニア
    大腿管※※という管を通り、下側から出てくるタイプのヘルニアです。頻度は少ないですが、先ほど説明した嵌頓になる可能性が高いです。

※鼠径部にある筒状の管のことをさします。男性では精巣を栄養する血管や精管、女性では子宮を支える円靱帯が通っています。
※※大動脈から、足にむかう血管が通る管です。

 

鼠径部ヘルニアの治療

鼠径部ヘルニアは、手術のみが唯一の治療方法です。ヘルニアバンドと言う物もありますが、根本的な治療にはなりません。筋膜が弱くなった部分(ヘルニア門)を縫合して閉鎖するのが従来の方法でしたが、再発率が非常に高いことが分かっています。そこで近年は、メッシュという人工物でヘルニア門を閉鎖する手術が大半を占めています。メッシュを使用した手術の方法は、大きく分けて二つあります。鼠径部切開法と腹腔鏡下ヘルニア修復術です。

鼠径部切開法(Plug法)

鼠径部を約5~7cm程度切開して、ヘルニア門を探し、その穴にプラグと言う円錐形のメッシュを挿入して、更に上からヘルニア門をメッシュで覆い補強する方法です。

 

腹腔鏡下ヘルニア修復術

鼠径部を切開せずに、腹腔鏡下に筋層と腹膜の間を剥離して、ヘルニア門を背側からメッシュで覆い補強する方法です。腹圧がかかっても、メッシュはヘルニア門に圧迫されるため、ヘルニア門を補強する方法としては非常に理にかなっています。また鼠径部切開法に比べて疼痛も軽度で、術後の回復も早いと言われています。

 

また、腹腔鏡下ヘルニア修復術はTAPP法とTEP法と言う二つの方法があります。両方とも、メッシュを敷く部位は同じなのですが、アプローチが違います。

TAPP法は、お腹の中(腹腔内)よりアプローチする手術なのに対して、TEP法は、腹腔内には入らずに直接、筋層と腹膜の間を剥離します。

TEP法は、腹腔内に入らないため、腹腔内の臓器(大腸、小腸など)を損傷する危険がありません。すなわちお腹に優しい手術と考えています。腹腔内合併症の危険がないため、当院では第一選択としています。

しかし、TAPP法は腹腔内から観察するため、ヘルニアの診断は容易であり、また対側も観察できるという利点があります。そこで、我々は、TAPP法の腹腔内から観察するという利点は取り入れて、TEP法を行っています。

当院のTEP法

  • ① まず腹腔内を観察します。
    正確な診断と、対側も診察します。
    もし、対側にもヘルニアが存在すれば、同時に治療します。
    腹腔内な観察するのみです。腸管には触りません。すなわち、腸管損傷の危険はないです。

  • ② 腹腔内は脱気し(空気を抜き)
    引き続き、筋層と腹膜の間(腹膜外腔)を剥離して、メッシュを展開します。

  • ③ 再度腹腔内より観察して、
    メッシュが捲れていないかの確認を行います。ヘルニア門は消失していることが分かります。

単孔式腹腔鏡下手術

お臍に一つだけ穴をあけて行う腹腔鏡下手術です。傷は臍に隠れ、傷はほとんんど見えません! 低侵襲手術です。

お臍の傷一カ所のみで手術を行います。

単孔式手術の後の写真です。傷がほとんど目立ちません

当院は、この単孔式手術の経験も豊富であります。腹腔鏡下ヘルニア修復術にも積極的に行っています。しかし、大きなヘルニアや、体型などで困難な時もあります。その際は、通常のTEP法で行います。通常のTEP法であっても、低侵襲であることには変わりありません。

 

術後の経過

日帰り手術は、当院では翌日の患者さんの状態や創部確認など行うため、行っておりません。
手術は、片側のみで約1時間程度です。もちろん、ヘルニアの大きさなどで、
時間は延長することもあります。

手術当日は、部屋に戻られて3時間ほど経過しましたら、飲水や歩行もしてもらいます。

手術翌日は、食事も開始し、退院許可としております。
痛みの程度は人それぞれですが、3日には日常生活に戻る人が多数です。入浴も可能です。

7日目には、ジョギングなど軽い運動もできます。       

退院後、1~2週間後に外来受診していただき、傷の状態を確認します。
問題なければ、3~4か月後にも受診していただき状態を確認させていただきます。
その他、何かご不明な点がございましたら、なんでも聞いてください。

 

腹壁瘢痕ヘルニアとは

腹壁瘢痕ヘルニアとは、お腹の手術をうけられた際に、筋膜がうまくくっつかなくて、起立したときや、腹圧をかけたときに、腸や脂肪などが皮膚の下に出てきてお腹が膨らむ病気です。

症状は様々ですが、腸を抑えても引っ込まなくなって、急激な腹痛をきたすことがあります。それは、脱出した腸が戻らなくなった状態であり、「嵌頓」といいます。放置しておくと、腸が壊死してしまい、重篤な状態になり緊急手術が必要になります。

腹壁瘢痕ヘルニアの原因は様々ですが、術後の創部感染、肥満、低栄養、ステロイド治療、呼吸器疾患、糖尿病、心疾患などがリスク因子と言われています。

腹壁瘢痕ヘルニア

 

腹壁瘢痕ヘルニアの治療

腹壁瘢痕ヘルニアの治療も、鼠径ヘルニアと同じで、手術しか選択肢がありません。

アプローチ法としては、開腹手術と腹腔鏡下手術があります。当院は、腹腔鏡下手術で、腹腔内にメッシュを留置して補強する方法を第一選択にしています。筋膜がくっついていない部分(ヘルニア門)が比較的小さければメッシュを留置するだけですが、大きければ、ヘルニア門も閉鎖します。

腹腔鏡下ヘルニア修復術

当院で行っている、腹腔鏡下ヘルニア修復術です。

 

食道裂孔ヘルニアとは

胸とお腹の間には横隔膜という筋肉があります。そして、食道が横隔膜を通る穴を食道裂孔と呼びます。この食道裂孔が緩み、開大することで、お腹にある胃の一部や、他の臓器が胸腔に入り込む状態の事を食道裂孔ヘルニアといいます。  

近年高齢化や、肥満の患者さんが増えてきており、大きな食道裂孔ヘルニアを有する患者さんは増えています。

食道裂孔ヘルニアの分類

内視鏡検査・CT検査

食道裂孔ヘルニアの症状は?

胃から逆流する仕組みがうまく働かなくなって、胃酸が食道にあがってきやすくなります。そのため、逆流性食道炎を併発し、胸やけ、胸痛、つかえ感等の症状が出てくることがあります。

食道裂孔ヘルニアの症状

食道裂孔ヘルニアの治療は?

まずは、内服による内科的治療を行ってもらいます。しかし、内服治療を行っても、症状が改善しない時は、手術を考慮します。

食道裂孔ヘルニアの手術

開腹手術の選択肢もありますが、多くは腹腔鏡下手術にて行います。  

腹腔鏡下手術で食道裂孔ヘルニア修復術を行います。具体的には、胸の中に入り込んだ胃を、まずはお腹の中に戻して、開大した食道裂孔を縫い縮めます。
最後に胃酸逆流を防ぐために、胃を食道に巻きつけます(噴門形成術)。

食道裂孔ヘルニアの手術

手術前後

内服の治療をしても症状が改善しない、食道裂孔ヘルニアの患者さんは、 是非ご相談下さい。

 

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