下部(大腸)

大阪医科薬科大学 下部消化管グループについて

日本人の2人に1人はがんにかかる時代と言われています。大腸がんは日本人で最も多いがんですが、その一方で、10年生存率はステージ2で83.9%、ステージ3であっても69.4%と良好であり、手術で根治を望むことができるがんのひとつです。

患者さんの体の負担の少なくするために早くから腹腔鏡手術を導入し、これまでに5000例以上の腹腔鏡下大腸がん手術を行ってきました。2018年からは手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った手術も開始し、より安全で精密な手術が可能になりました。また、大腸がんだけでなく炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、大腸憩室症、直腸脱などの治療も行っています。

下部消化管グループでは高い専門性、安心で安全、満足度の向上の3つを理念とし(図1)、3人のスタッフ(濱元宏喜、高野義章、島卓史)で診療を行っています。

下部消化管グループが目指す3つのS

 

図1「高い専門性、安心で安全、満足度の向上の3つのS」

大学病院は敷居が高いと感じるところがあるかもしれませんが、患者さん目線で、患者さんに寄り添った治療を行っていきたいと考えていますので、気になること、疑問に思うことはいつでも気軽に声をかけていただければと思います。

「この病院で手術を受けて良かった」と元気に退院されていく姿がわれわれスタッフの何よりの励みとなっています。大阪医科薬科大学の理念である「安全で質の高い医療を提供する」大学病院として、さらに大きく社会に貢献できるように全力を尽くしていきます。

大腸がんに対するロボット支援下手術

2018年よりダヴィンチXi手術システムを用いたロボット支援下手術を行っており、2021年12月より2台体制で手術を行っています。 直腸がんに対しては2018年から、結腸がんに対しては2022年よりロボット支援下手術を行っています。

ロボット手術の利点(図2)として、従来の腹腔鏡手術では直線的にしか動かなかった手術器具が人間の手首よりも広い可動域を持つことで、狭い骨盤内においてもリンパ節を残すことなく1つの膜につつまれた状態で直腸癌を切除することが可能になります。

図3「ロボット手術の利点」

図2「ロボット手術の利点」

また鮮明な3D画像を見ながら、手振れ防止、縮尺機能(手元で6cm動かしても、お腹の中では2㎝しか動ない)を備えたロボット手術ではより繊細な手術(関連動画①:ロボットを使うと米粒に字が書ける)が可能になり、根治性、排尿・性機能などの機能温存の向上が期待できます。

ロボット手術では従来の腹腔鏡手術にこのような特徴・利点が加わったことで、これまで以上に患者さんに優しい治療が可能になります(図3)。

腹腔鏡手術の特徴

  1. 傷口が小さい
  2. 術後の痛みが少ない
  3. 術後の回復が早い
  4. 出血量が少ない
+

ロボット手術の特徴

  • 繊細な手術が可能
  • 術後の排尿・性機能が温存
  • 早期回復が期待

図3「ロボット手術は患者さんに優しい」

当科ではこれまでに250例以上の直腸がんに対するロボット支援下手術の手術実績があり(図4)、結腸がんに対してもこれまで60例以上の手術を行っています。ロボット手術を希望される患者さんは外来担当医にご相談ください。

図5

図4

初診外来  木・土曜日:濱元宏喜

放射線増感剤を用いた直腸癌に対する集学的治療(肉眼的にがんが消失した状態になれば、手術を行わずに慎重に経過観察を行います)

進行直腸癌は、手術だけでは約3割が局所再発するといわれています。
手術だけでは不十分な可能性があり、抗がん剤治療、放射線治療を組み合わせて、治療をすすめていく必要があります。
当院では、病気の部位や進行度に合わせて、最適な治療方針を決めています。(図5)

 

図5「放射線増感剤を用いた直腸癌に対する集学的治療」

図5

 

最近では、手術前に放射線と抗がん剤治療を行い、さらに追加で化学療法を行うという集学的治療を行う(Total Neoadjuvant Therapy; TNTと呼ばれています)ことで、肉眼的にがんが消失した状態(臨床的完全奏効)となることがあります。(図6)
この場合、すぐに手術を行わずに慎重に経過観察を行う「Watch and Wait療法」を行っています。
これまでは永久人工肛門となっていた患者さんでも、この治療を行い、経過をみていくことで、約50%は3年間手術を行わずに経過を見ることが可能であると報告されています。
(図7)

 

図6「放射線増感剤を用いた直腸癌に対する集学的治療」

図6

図7「放射線増感剤を用いた直腸癌に対する集学的治療」

図7

 

当院では、乳がんに対して放射線増感剤を用いた放射線治療を積極的に行ってきました。
その経験を踏まえ、2023年から直腸癌に対しても放射線増感剤を用いた放射線治療含む集学的治療を積極的に行っています。
放射線腫瘍科、化学療法センターと綿密に連携を取り合いながら、それぞれの患者さんに最適な集学的治療を行っています。

 

 

ICG蛍光法を用いた腹腔鏡手術

Indocyanine green(ICG)は肝機能評価や血流評価に用いられるよく用いられている薬剤です。ICGは粒子が非常に小さいため血流やリンパ管に沿って流れる性質があり、近赤外線下に観察することで蛍光観察が可能になるという特徴があります。この特徴を利用し、手術中にリンパ節を可視化することが可能になります(図8)。これまでよりも精緻で確実な手術が可能になると考えており、臨床試験として(臨床試験番号:2741-1)ICG蛍光法を用いた腹腔鏡手術を行っています。

図7

図8

 

患者さんへのアドバイス

  • 大腸がん治療においては、早期発見・早期治療が一番です。特に症状がなくても、定期的に大腸検査(大腸内視鏡検査)を受けられることをお勧めします。また、検診(便潜血検査)で一回でも陽性ならば、必ず大腸内視鏡での精密検査を受けましょう。
  • 大阪医科薬科大学病院では消化器内視鏡センターにおいて消化器外科も消化器内科と連携して大腸内視鏡検査や内視鏡的切除(ポリペクトミー/EMR/ESD)を行っており、消化器外科を受診されても内視鏡的切除が適切な患者さんには、手術よりも内視鏡的切除を優先します。
  • 大腸がんをはじめ、大腸疾患でお悩みの患者さんがおられましたら、当科初診外来(火・木・土曜日午前)へ受診、もしくは、ご紹介ください。
  • セカンドオピニオンのご相談や医療機関からのご紹介では「医療連携室」[TEL:(072) 684-6338、 FAX: (072)684-6339]をご利用ください。また、当院の外来案内ならびに医療連携の項もご参照ください。
  • 退院後の経過観察は紹介医などの先生方の施設との医療連携をメインにするように配慮しています。