医療関係者の皆様へ

研修医の皆様へ

小耳症

副耳

生まれつき耳の前や頬、頸部に小さな耳たぶのような隆起を生じたものです。発生頻度は1%前後と考えられています。

副耳のタイプ

副耳には内部に軟骨が存在するものと、皮膚成分のみのものがあります。

副耳の治療法

治療方法は外科的切除と、糸による結紮の二つに分かれます。
付け根がくびれていて、軟骨を含まないものであれば出生後早期に糸で副耳の基部を結紮することで、副耳の血流がなくなり1週間程度で脱落することが期待できます。
一方、比較的なだらかな隆起で、軟骨を含むものについては手術による切除が必要となります。この場合副耳を根元から切除して、きれいに縫い合わせます。手術は30分程度の簡単なもので、およそ10歳以降であれば局所麻酔を用いて日帰りで治療が可能ですが、小児の場合は基本的に全身麻酔が必要になります。
手術で切除を行えば傷はほとんどわかりませんが、糸で結紮を行った場合は、小さな隆起が残ることがあります。もともとの副耳と比較すると目立ちませんが、気になる場合は10歳以降に日帰りで切除することも可能です。


図1 副耳の術前(左)と術後6か月(右)
軟骨を伴うタイプであったため、全身麻酔下に切除を行いました。

埋没耳の治療法

埋没耳は耳介の上前方が側頭部に埋まっている状態の変形です。特徴は用手的に引き出すと正常な耳介の形態になるのが特徴ですが、手を離すと元通り耳の上前方が埋まってしまいます(図2)。新生児期であればテープによる矯正が可能なことがありますが(図3)、戻る力が強い場合は手術が必要になります。


図2
埋没耳は用手的に引き出すと、正常な耳の形になりますが、
話すと埋まり込んでしまいます。


図3テープによる埋没耳の矯正例(文献1より)

手術では耳介の後面を切開して、前述の筋肉を切離して耳介が後戻りしないようにします。手術は1時間ほどで終了します。
成人例では耳輪の変形を認める場合があり、機能的に問題があれば耳の軟骨の一部を移植して形を整えることがあります(図4)。


図4成人の埋没耳修正例
耳輪部分の変形も認めたため、
同側の耳介軟骨を移植し埋没耳と耳輪の変形を修正しました。

耳介ケロイド

ケロイドは傷あとがみみずばれの様になる状態のことです。耳に生じるケロイドは主にピアスの穴が感染したり炎症を起こしたりすることで生じます。

耳介ケロイドの治療

ケロイドに伴う痛みやかゆみの治療にはステロイドのテープを貼付したり、ステロイドの注射を行うなどの治療がありますが、ケロイドが小さくなるはあまり期待できません。大きくなってしまったケロイドを治療するには外科的な切除が必要となります。大きいケロイドを切除した場合は皮膚移植(植皮)や周囲の皮膚を移動して(皮弁術)欠損部分を再建する必要があります。ケロイドは体質によって再発することがあります。切除した後に、再発の予防として電子線照射を行うことがあります。


図5 ピアスによる耳介ケロイドの症例
術前(左、中)と術後半年後(右)。
ケロイドの切除後に皮弁(周囲の皮膚を移動する方法)で再建しました。

小耳症

小耳症は生まれつき耳の形が小さい状態で生まれてくる疾患です。頻度は、およそ5000人に1人程度と推定されています。

小耳症のタイプ

小耳症以外にも顔の変形を伴う症候群または小耳症単独例
第1第2鰓弓症候群
小耳症には顔の骨の低形成を伴う第1第2鰓弓症候群の症状として出現することがあります。妊娠初期の胎生期に鰓弓と呼ばれる筋肉や骨を作るもとになる部分のうち、耳、あご、頬の形成を担当する第1第2鰓弓の異常によって生じる疾患を第1第2鰓弓症候群といいます。小耳症をはじめ、患側のあごが小さい(低形成)、あごの関節の動きが悪い、下くちびるや頬の筋肉の動きが悪い(顔面神経麻痺)、聴力障害、巨口症、副耳などの症状を伴うことがあります。これらの症状は生下時より存在しており、多くの場合診断が可能です。
巨口症や副耳の治療は乳児期に行います。あごの低形成については矯正歯科医と連携し治療を行いますが、高度な低形成についてはあごを伸ばす手術が必要になることがあります。

小耳症単独

第1第2鰓弓症候群の様に顔の症状を伴わず、小耳症のみをみとめる患者様です。顔の症状を伴わないため、基本的には10歳から12歳で耳の手術を行います。耳の形によって、耳甲介型と耳垂型の小耳症に分かれます。耳甲介型など外耳道(みみの穴)が開いている場合でも、聴力の低下を伴う場合があります。初診後に当院の耳鼻科へも受診していただきます。その他、耳の存在するべき場所まで頭髪で覆われているLow-hair lineのパターンがあります。Low-hair line typeの小耳症では耳介の位置に存在する皮膚を置き換える(植皮)必要があります。
耳甲介型では外耳道が空いている場合があり、手術では下半分の耳を生かして耳を形成します。耳垂型では小耳症の一部を耳垂(みみたぶ)として手術で形成する耳に用いますが、ほとんどの形態を新たに手術で形成します。

小耳症の手術

小耳症の手術は2回の入院手術を必要とします。
1回目の手術では肋軟骨を用いて、耳介のフレームを作成し皮下に作成したポケットに留置します。これにより平坦な耳が形成され、眼鏡の装着は可能になります。
2回目の手術では1回目の手術で作成した耳を立ち上げ、耳のうしろの溝を作成します。この手術により、マスクの装着が可能となります。

手術時期

10歳から12歳、胸囲(胸と腹の境界で)60cm以上を基準としています。

麻酔方法

全身麻酔+脊椎麻酔
脊椎麻酔を併用することで術後の胸の痛みが軽減されます。

手術方法

1回目の手術(耳介形成・軟骨フレーム移植)
右の胸部より肋軟骨を採取します。採取する軟骨は第6〜8、軟骨が小さい場合は第9軟骨を採取します(図6)。


図6 右の第6〜8(9)軟骨を採取します。

採取した軟骨を用いて耳のフレームを作成します。片側の小耳症の場合フレームの形は健側の耳の形を参考に作成します(図7)。


図7 軟骨フレーム

耳垂型の場合はもともとの耳を利用して耳垂(耳たぶ)を形成します。
耳甲介型の場合は健側と同じ大きさの耳の下1/4から1/3を利用して耳を形成します(図)。
耳のフレームを作成して余った軟骨は、耳介挙上用に大きなものを除いて、肋軟骨を採取した部位へ戻します。これにより軟骨がある程度再生されると考えられています。
耳介挙上用の大きな軟骨は胸の傷の下に移植しておき、2回目の手術の際に採取します。胸の傷跡は2回目の手術で再度きれいに縫い直します。
この手術の1週間後に局所麻酔で余った皮膚を取り除きます。

2回目の手術

1回目の手術で形成した耳介の後方を切開して耳を挙上します。そのままでは耳はもとの位置に戻ってしまうため、1回目の手術の際に胸に移植しておいた大きな軟骨を加工して耳の支えを形成します。耳の後ろにある筋肉の膜で移植した軟骨を覆い、耳の裏側へは下腹部より採取した皮膚を移植します。下腹部の皮膚は下着で隠せる部分から採取します。
耳の後方の頭の部分は周囲から移動させた皮膚と、頭皮より余った皮膚を用いて覆います


図6 耳垂型小耳症の術前(左)と術後(中央)および健側(右)

小耳症手術について患者さんからよくいただく質問

入院期間はどれくらいですか?
1回目の手術 2週間から3週間
2回目の手術 3週間

手術の方法は永田法ですか?
永田法から現在は四ツノ法に変更いたしました。
大阪医科薬科大学形成外科では2013年から年まで永田先生のもとで小耳症治療を学んだ医師が永田法による手術を行ってまいりましたが、現在は四ノ先生の方法を取り入れて手術を行っています。永田法と四ノ法の違いは軟骨フレームの作製方法などもありますが、大きな違いは耳介挙上手術だと思います。永田法と四ノ法の両方を経験して感じたことですが、永田法では耳介後面から頭部にかけて皮膚移植で再建するため長期の経過とともに耳の後ろの溝が浅くなる患者さんを経験しました。これは移植した皮膚が縮むという性質からある程度予想されることであり、見た目では問題ないのですが、コロナ禍においてはマスクの装着が困難な場合があり、現在は四ノ法による耳介形成に完全に変更いたしました。

手術の合併症にはどんなものがありますか?
他の手術と同様に、出血、感染、血種、痛みがあります。
小耳症手術特有のものでは傷あと、気胸があげられます。
出血については少量で輸血の必要はありません。
感染については術後数年経ってから移植した軟骨に感染を生じた症例を経験しています。いずれの患者さんも通院にて洗浄処置を行い、大事に至らず耳の形態も保たれています。術後数年経過していても、異常を感じたときはすぐにご連絡ください。
手術によって最も痛みが強いのは軟骨を採取した胸の傷です。脊椎麻酔を術後のしばらく続けることで痛みの軽減を図っています。
傷あとは胸や下腹部にも生じます。いずれの傷もしわに沿った傷となるため、目立ちにくくはなりますが、3か月間傷あとをきれいにするテープ貼付と内服を行います。
気胸はこれまでに経験したことはありませんが、肋軟骨採取に伴う合併症として報告されています。軟骨を採取する際に、肺が入っている部屋の壁に穴が開いてしまうことで生じます。その場合は壁を修復して、数日間ドレーンチューブを留置する必要があります。

聴力についての治療は行っていますか?
当院では、耳の聞こえに関する手術が必要な方は、耳鼻科の鼓室形成の専門家と手術を行っております。耳の穴が塞がっている場合、真珠腫が存在していても気がついてないことや、穴の入り口が狭く掃除できにくいこともあります。正常側が中耳炎にならないよう大事にすることも大事です。両側小耳症では聞こえの改善の手術の可能性を検索いたしますが、外耳道が存在していない方では、外耳道を形成する過程で顔面神経(顔を動かすための神経)を傷つける可能性も低くなく、慎重な判断が必要です。詳細は耳鼻科受診の際に担当医に問い合わせください。

どれくらい通院が必要ですか?
紹介受診後、形成外科には手術の至適年齢になるまで年に1回程度の定期受診を行い、年齢に応じて患者さん本人にも手術の方法を説明します。手術を受けたいかどうかについては、本人の意思も確認します。また、経過中に耳鼻科にも受診いただきます。耳鼻科では検査可能な年齢になったら聴覚の検査などを行います。第1第2歳鰓弓症候群の患者様には矯正歯科を紹介受診いただき、必要に合わせて、矯正治療を行います。

文責:塗 隆志

▲ページ上へ