研究紹介

Research

臨床研究

研究と聞くと実験台にされるという印象をお持ちになる方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。当院では厳しい倫理委員会の審査を受けた上で研究は行われていますのでご安心ください。もし今後、臨床研究の説明を受ける事があった際は将来の医学の発展のためにご協力をいただけますと幸いです。

オプトアウトについて

通常、臨床研究を実施する際には、文書もしくは口頭で説明の上、患者さんの同意を得て行います。臨床研究のうち、患者さんへの侵襲や介入がなく、診療情報等の情報のみを用いる研究等については国が定めた倫理指針に基づき、対象となるすべての患者さんから個別に直接同意を得る必要はありませんが、研究の目的を含め研究の実施についての情報を公開し、さらに可能な限り拒否の機会を保障することが必要とされています。このような手法を「オプトアウト」といい、当教室でオプトアウトのための情報公開を行っている臨床研究は下記のとおりです。研究への協力を希望されない場合は、公開文書(PDF)内に記載の各研究の担当者までお知らせください。

敗血症および集中治療後症候群に関する研究

近年、集中治療医学は劇的な進歩を遂げ、集中治療室での死亡率は改善しました。しかし、集中治療室を退室してからの長期的に見た死亡率や生活の質 Quality of life(QOL)はまだ改善していません。集中治療後症候群 postintensive care syndrome(PICS)とは、集中治療室の退室後や退院後も続く、運動機能・認知機能・精神の障害です。
敗血症は高齢化社会で増加します。全敗血症患者のうち約60%は65歳以上の高齢者で、その死亡者数の約80%を占めます。近年、敗血症がPICSの重要な原因であると報告されました。敗血症の救命率は集中治療の進歩により、向上してきています。これは同時にPICSを発症する患者の増加も意味します。日本の65歳以上人口は2030年には総人口の約32%を占めると推測され(総務省. 情報通信白書 平成24年度版.)、敗血症患者の増加と同時にPICSを発症する患者の増加が見込まれます。PICSをいかに予防するかが今後の大きな課題であり、私たちはその課題に目を向けてPICSおよび敗血症に関する研究を行っています。

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急性腎障害と術中輸液製剤の関連性

腎臓の機能が急速に低下する急性腎障害は、様々な原因が関係していると推測されています。その一つに、手術の時の出血や身体に大きな侵襲が加わる事によって生じる脱水が原因となっています。私たち麻酔科医が普段から使用している輸液製剤の一つであるヒドロキシエチルデンプン130000(ボルベン™)は、感染症の患者さんに使用すると腎臓に悪影響を与える事が指摘されていますが、出血による脱水に対して有用な製剤であるため、脱水が原因の急性腎障害の予防に役立つのではないかとも考えられます。医療の世界ではこのように矛盾のある事象は多々ありますが、私達はこれらの疑問を解決することで、少しでも患者さんが安全に手術を受けられるように研究を行っています。

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透明包帯による小児の点滴の固定

子どもの点滴、薬剤漏れによる皮膚損傷が報告されています。子どもは大人と違って痛みや違和感の訴えが少なく、発見が遅れて重症化することがあるため各病院で点滴漏れの対応がとられていますが、統一されていないのが現状です。
点滴が入った子どもは関節を添え木(シーネ)と包帯でしっかりと固定することが多く、巻き付けた包帯で点滴が入っている場所の観察が難しくなります。定期的に固定を外して点滴漏れがないかを確認しますが、明確な時間や方法は決まっておらず、医師・看護師の負担が大きくなります。早期発見・早期予防によって点滴漏れのリスクを減少させることを目的に、シーネ固定に用いられる包帯に代わる透明な包帯を開発、研究しています。また子どもは皮膚が弱いことがあるので、皮膚にやさしい素材の開発も行っています。今後実用可能となれば、高齢者や救急での使用を検討しています。

従来の点滴固定法

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基礎研究

おもに難治性疼痛のメカニズムの解明を行っています

麻酔科学教室は、研究棟の8階に4部屋、合計146.29m3の研究室を有しています。研究棟には充実した実験機器が揃った「機器共同利用センター」があり、1日24時間いつでも利用できるようになっています。

神経障害性疼痛の発現維持の解明

痛みには、一時的でもともとの病気や怪我が治ると消失する急性痛と、痛みの原因が除去されたにも関わらず長期間持続する慢性痛があります。慢性痛の中でも、何らかの原因で神経が損傷されたことにより生じる慢性痛は、神経障害性疼痛と呼ばれています。この神経障害性疼痛で苦しむ患者さんは、国内でも600万人いるといわれていますが、一般的な薬が効きにくく、また発症のメカニズムはよくわかっていません。痛みを感じるとは単純明解な言葉のように思えますが、「同じ痛みでも痛がりの人」、「痛みをみんなで分け合う」、「痛い部分を摩ると和らぐ」という言い回しの裏には、痛みには原因となる局所を認識するための感覚受容やそれを脳に伝える神経経路が関与している側面と、不安や恐怖などの体験によって影響を受ける情動認知を含めた脳機能の側面の二面が複雑に絡み合っています。
私たちの研究グループでは、神経障害性疼痛の発症機序を解明するためにマウスを用いた動物実験により研究を行い、痛みを認識する感覚受容や痛み神経の伝達経路に着目して成果を挙げてきました。また、最近では神経障害性疼痛の発症や痛みの持続に神経細胞や脳内環境の維持に重要な役割を果たしているアストロサイトが関係していることを明らかにしています。現在は、アストロサイトをはじめとする痛みに伴う脳機能や脳内細胞の形態学的変化に着目し、新たな方向から神経障害性疼痛の発症メカニズムの解明させることを目標に、マウスの行動学的変化や免疫組織学的・分子生物学的変化に対する評価技術を用いて研究しています。痛みによって脳内の神経回路や関係する脳機能にどのような変化が生じているのか、この疑問を解明することにより神経障害性疼痛に苦しむ患者さんへの新しい治療薬の開発の一助になると考えています。

パーキンソン病モデルマウスにおける新規治療薬の鎮痛効果の検証

パーキンソン病は、60歳以上の1%以上が発症する神経疾患です。パーキンソン病の症状は体の動かしにくさといった運動症状が主ですが、パーキンソン病患者さんの68~85 %は痛みを併発し、うつや睡眠障害、生活の質の低下と関連します。しかし痛みに関しての情報はまだ十分に報告されておらず、痛みの原因は解明されていません。
パーキンソン病の痛みはドパミンの補充による薬物療法によって緩和されることがあります。これは脳内のドパミンの量が痛みと関係している可能性があることを示しています。私たちはかねてより交感神経、ドパミンと痛みの関係について研究を進めており、パーキンソン病モデルマウスを作成し、行動評価と痛みの評価を行っています。さらに免疫組織化学染色で痛みに関連する脳の活動評価を行い、パーキンソン病モデルマウスにおいて脳のどこに痛みの原因があるか調べています。
現在、大阪工業大学とパーキンソン病の痛みの新規治療薬の開発を共同で進めています。痛みのメカニズムを解明し、運動に影響を与えないパーキンソン病の新規治療薬を開発することで、パーキンソン病患者さんの生活の質を改善することを目標としています。

がん性疼痛モデル

痛みを伝える神経は鋭い痛み(1次痛)を伝える有髄性の神経であるAδ線維、鈍い痛み(2次痛)を伝える無髄性の神経であるC線維の2種類があります。がんによる痛みは主にC線維による慢性疼痛が関係していると言われています。
生後間も無い赤ちゃんマウスにカプサイシンを投与することでこのC線維を破壊することが知られており、このC線維を破壊したマウスを使って様々な実験をしています。具体的にはカプサイシン処置マウスにがん細胞を打ち込み、その後の経過を見ることでC線維の破壊が鎮痛作用だけでなく、がんの進展予防や生命予後にも効果があるかを調べています。カプサイシン処置マウスだけでなく、遺伝子操作によりC線維を持たないマウス(TrkA受容体ノックアウトマウス)でも同様の実験が出来ないかも模索中です。
最近では、私たちが解明してきた毒茸のドクササコの成分であるアクロメリン酸と疼痛の発現維持との関係性をがん性疼痛に応用する研究にも着手しています。

カプサイシン処置マウスに蛍光タンパク質GFPを導入したがん細胞を打ち込み、
イメージングシステムIVISにより経日的に撮影して、腫瘍増殖の程度や転移を視覚的に観察している

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