研究内容

パーキンソン病

パーキンソン病は高齢化に伴い患者数は増加の一途をたどっています。経過も長く社会的にも大きな問題となっている疾患です。一方で、α-シヌクレインを中心とした病態機序の解明や細胞移植療法など新規治療法の研究が進み、世界的にみても基礎的研究、臨床とも非常にホットな分野です。
我々はパーキンソン病の基礎的研究と臨床研究を行うことで、パーキンソン病のより良い診断と治療に貢献することを目標としています。基礎的研究に関して、知識や経験がなくても全く問題ありません。分子生物学・細胞生物学といった基礎的研究に興味のある若手を熱烈歓迎いたします。パーキンソン病のような神経難病がどのように生じるのか、パーキンソン病に対してどのような新しい治療法があるか、一緒に考えてみましょう。

  • 1.パーキンソン病におけるレビー小体形成機序の解明
    パーキンソン病は、レビー小体と呼ばれる凝集体が神経細胞内に形成されることを特徴とします。レビー小体は、α-シヌクレインと呼ばれるタンパク質分子が異常に凝集したものです。このα-シヌクレインの異常凝集が神経細胞の変性に重要な影響を与えていると考えられていますが、レビー小体の形成メカニズムはまだよくわかっていません。私たちは、レビー小体の形成メカニズムの解明を目指して、培養細胞やモデル動物を用いてα-シヌクレインの分解メカニズムと凝集の関係に焦点をあて研究に取り組んでいます。
  • 2.レビー小体伝播メカニズムの解明
    パーキンソン病症状の進行を説明する考えとして、α-シヌクレインのプリオン様伝播仮説というものが提唱されています。もともと、クロイツフェルト・ヤコブ病で唱えられてきた仮説です。これは、構造的に異常をもつタンパク質が正常型のタンパク質を次々に異常型に変換しながら、細胞から細胞に伝播・進展していくという考えです。パーキンソン病でもα-シヌクレインがプリオン様に伝播していく機序が考えられています。私たちは、α-シヌクレイン細胞外への放出機構に焦点をあて研究を行っております。当教室ではα-シヌクレインの新たな細胞外放出経路としてABCトランスポーターを同定するなど、新しい研究結果を蓄積し精力的に取り組んでいるテーマです。放出機構を制御することによって、新しいパーキンソン病治療法を開拓することを目指しています。
  • 3.モデル動物を用いたパーキンソン病治療法の探索
    パーキンソン病にはレボドパ製剤など多様な治療薬がありますが、神経細胞の変性を根本的に抑制する治療法はありません。長期予後を改善するために、神経細胞を保護する治療法の開発が喫緊の課題となっています。しかし、具体的にどのような分子を標的とすることで、神経保護効果が得られるのか明らかではありません。私たちは、α-シヌクレインの遺伝子を搭載したアデノ随伴ウイルスやα-シヌクレイン凝集物をノックアウトマウスの脳に接種することでパーキンソン病のモデルマウスを作製しています。そして、そのモデルマウスを用いて特定の遺伝子発現を抑制した時にα-シヌクレインの毒性がどのように変化するか研究しています。特にウイルスを用いたモデル動物の作製は、国内でも実施できる施設は非常に限られています。その利点を活かして、分子レベルで有効な治療標的を探索しています。
  • 4.イメージングによるパーキンソン病の鑑別診断
    パーキンソン病の臨床では、症状は似ているけれども原因が異なる疾患群との鑑別を考えなくてはなりません。このような類縁疾患は、一般にレボドパに対する反応性が悪く症状の進行が早い特徴を有します。治療戦略や予後を考える上でパーキンソン病とその類縁疾患の鑑別は極めて重要です。DATスキャンは黒質線条体ドパミン神経細胞の変性を調べるイメージング検査で臨床的によく用いられていますが、パーキンソン病と類縁疾患の鑑別には有効でないとされています。私たちは、パーキンソン病と類縁疾患の鑑別におけるDATスキャンの有用性と限界を詳細な解析から検討しています。
  • 5.パーキンソン病患者における早朝症状の実態調査
    パーキンソン病は、進行してくると早朝に症状を現すことが知られています。早朝症状にはOFF状態(寡動・振戦の悪化)、早朝ジストニア、筋肉痛、筋痙攣、睡眠障害(早朝覚醒、頻回中途覚醒)など多様なものがあります。研究グループでは、寡動、ジストニア・こむら返りなど、起床時に出現する症状と睡眠障害との関連性について検討しています。パーキンソン病の方々が普段感じられている苦痛について、まだよくわからない点に光をあてて、治療介入に結び付けていきたいと考えています。

筋萎縮性側索硬化症のバイオマーカーの探索

Neuron-specific enolase(NSE)は主に神経細胞に存在する物質です。いくつかの神経疾患では髄液NSEが上昇することが報告されていますが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)で上昇するか否かは明らかになっておりません。我々は、ALSにおける髄液NSEやそれに関わる物質の動態に焦点を当て研究を行っております。ALSは候補となる治療薬も次々に報告され、早期診断の重要性が指摘されていますが、頚椎症などの他疾患との鑑別が難しい場合があります。さらに、現在のALSの診断基準は診察所見が中心であり、診断に有用なバイオマーカーは特定されていません。髄液NSEがバイオマーカーとして、ALSと他疾患の鑑別に利用できないか、その臨床的な有用性について検討しています。

重症筋無力症の転帰予測因子に関する検討

重症筋無力症は同じ自己抗体を有する場合でも重症度は様々です。一旦病状が寛解した後の経過も、生涯寛解を維持する症例があれば、再発を繰り返す症例もあります。再発を繰り返すなどの難治例では特に、免疫抑制剤の合併症や副作用でQOLが低下することが知られています。一方で、補体に対するモノクローナル抗体製剤など難治例に対する新規治療法が登場しています。発症早期から転帰を予測できるような因子を見つけることで重症筋無力症のより効果的な治療戦略を立てることができると考え臨床研究に取り組んでいます。

ギラン・バレー症候群の臨床的特徴の検討

ギラン・バレー症候群の合併症として低ナトリウム血症が知られています。低ナトリウム血症合併例の臨床的特徴として、重症例が多い、高齢者が多いなどが報告されていますが、詳しくはわかっておりません。また、低ナトリウム血症合併の病態機序として自律神経障害の関与が疑われていますが、未だ確定しておりません。我々は,ギラン・バレー症候群患者において,低ナトリウム血症合併群と非合併群に分類し比較検討しております。この解析により、低ナトリウム合併例の臨床的特徴、病態機序を理解することを目指しています。

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