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進行性腎癌に対する治療法はここ10年で様変わりしました。現在でも使用されるインターフェロンやインターロイキンを中心においた免疫療法のある意味では控えめともいえた生存延長効果を上回る小分子化合物が台頭し、特に米国ではcytokine eraが終焉を迎え、分子標的療法の時代に入りました。本邦でもソラフェニブ、スニチニブが順に進行性腎癌への適応が認可され、その後、2010年に、エベロリムス、テムシロリムスが認可されました。ソラフェニブ、スニチニブはチロシンキナーゼ阻害という薬理作用を持つ薬で、転移を有する症例でファーストチョイスで使用されることが多くなっています。その一方でエベロリムスはチロシンキナーゼ阻害薬が奏功しなくなった症例に使用されることが殆どで、薬理作用もチロシンキナーゼ阻害薬と大きく異なり、mTOR(mammallian Target Of Rapamycin)という分子を阻害する作用を有しています。
mTOR は、細胞の増殖や糖代謝、アミノ酸の恒常性維持、生存における調節を担う分子です。歴史的には抗生物質ラパマイシンの標的分子として発見されたというユニークな経過からこの名前を冠されました。従って、エベロリムスの副作用のプロフィールはソラフェニブ、スニチニブと大きく異なります。テムシロリムスも同じくmTOR阻害薬ですが、その適応はヨーロッパと米国のみならず日本においてもPoor riskグループと呼ばれる病状の進行が早いグループに属する症例に使用されることが多い薬剤です。mTOR阻害薬の二つの薬剤は本邦での認可と海外での認可の時期が似ていることもあり、本邦発のエビデンスが世界に向けて発信される過程にあります。我々の科ではこれらの薬剤を患者個々人の状態を把握しつつ最新のエビデンスを鑑みテーラーメードで行うようにしています。
一方で、転移の状態で病院にこられる患者様は腎癌患者全体の3割程度と一般に考えられます。事実、我々の施設での統計を見ても転移のない患者様の割合は同程度です。左の表にあるように、ステージTとUの症例が大半を占めているということです。こういった症例は薬剤ではなく手術で治療することになります。我々の施設では特殊例を除いて大半の症例の手術を腹腔鏡で行っています。
生存曲線のステージTとUの5年生存率は92.2%、100%と良好です。StageWのグループの生存率が極めてよくないことがグラフを見てわかります。実はこのグラフのStageWのグループには来院時既に治療出来ない状態であった方の生存率も約半数含まれています。近年の分子標的薬を駆使した治療によって進行性腎癌であっても2年以上外来に通院出来る方が増えています。StageWのグループの生存率が大幅に改善することが予想されます。
現在、我々の教室では年間60例以上の新規症例が訪れ、40-50例は手術を行い、患者様それぞれの病態にあわせた治療を適宜行っています。転移を伴った患者様には分子標的治療を中心に治療を行っています。米国ではインターフェロン単剤の治療は2012年5月現在、既に適応が認められなくなっています。
しかしながら、本邦から発表された国際論文に掲載されたデータを参照すると進行性腎癌に対するインターフェロン治療は日本人では欧米のデータと比較して2倍近い生存が期待できる可能性があり、我々も症例を吟味し現在も免疫療法を行っています。一方で分子標的療法では本邦発のエビデンスも蓄積されつつあります。
2012年5月現在では本邦で認可された進行性腎癌の分子標的療法の薬はソラフェニブ、スニチニブ、エベロリムス、テムシロリムスの4剤にすぎませんが米国のNCCN、ヨーロッパのEAUのガイドラインにはこれらの薬剤に加えてBevacizumabとインターフェロンの併用が中等度のリスクのある患者様に推奨されています。Pazopanibも同じく中等度のリスクのある患者様に推奨されています。腎癌の組織型は重要な予後決定因子で、もっとも多い淡明細胞癌の患者さまには前出のスニチニブやBevacizumabとインターフェロンの併用などが推奨されています。
一方で非淡明細胞癌の患者様には臨床試験が真っ先に推奨されている点は注目すべき点です。なぜならば、非淡明細胞癌の患者様は既存の薬剤を組み合わせても長期生存を得ることが難しく現在もよりよい治療法を探る試みがなされているからです。我々も積極的に国際共同試験に参加するよう努めています。
今日さまざまな泌尿器外科手術手技において、従来の開胸または開腹手術から内視鏡下での低侵襲手術へと変換されつつあります。内視鏡下による低侵襲手術の利点は、より早い術後の回復および経口摂取、より短い入院期間、術後疼痛の軽減、美容上の美しさ、そして医療費用の削減などが挙げられます。手術支援ロボットはストレスの少ない、より複雑で細やかな手術手技を可能としており、また3次元による正確な画像情報を取得できるため、より安全かつ侵襲の少ない手術が可能となります。
ロボット支援手術は、今までの内視鏡下手術の利点をさらに向上させうる、次世代の医療改革の一端を担った分野です。腎腫瘍に対するこの手術支援ロボット、ダヴィンチを用いたロボット支援腎部分切除術は、3D画像による良好な視認性と自由な操作性により腹腔鏡下腎部分切除術と比較し、より安全で確実な手術が可能になると考えられます。
2016年度の診療報酬改定において,ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術が保険適用となりました。内視鏡下腎部分切除術は,全摘出術と比べ低侵襲で安全性が高く,合併症を軽減するなどのメリットがあります。
米国では2011年に,ロボット支援による内視鏡下腎部分切除術が開腹手術とほぼ同じ件数になり,2012年には上回っている状況です。一方,わが国でも内視鏡下腎部分切除術の件数が増えており,2009年には腎悪性腫瘍の手術件数1万1845件のうち2481件(21%)であった一方で,2012年には1万3482件のうち4247件(32%)となっています。さらに,2014年9月からロボット支援内視鏡下腎部分切除術が先進医療に認められ,2015年には382例が施行されるに至っています。当施設でもすでに数十例の経験を有しています。
ロボットを使用することで腎腫瘍の手術は新たなステージへ進みます
末期腎不全の治療法には、透析療法(血液透析・腹膜透析)と腎臓移植があります。 透析療法は腎不全そのものを治療するものでなく、腎臓の代わりに血液を浄化したり体から水分を除いたりするもので、腎移植をしない限り基本的には一生を続けなければなりません。透析期間が長くなるにつれ、心臓、骨、血管などの合併症が生じ得ます。
日本の血液透析技術は高いので安全に血液透析を受けることができますが、1回4時間程度かかる透析を週3回病院もしくは診療所や透析クリニックなどで継続することが必要ですので、かなりの時間的な制約があります。さらに透析は腎機能の全てを補ってくれるわけではないので、食事や水分制限が必要とされ、複数の内服薬を服用しなければならないことが多いです。
腎移植は、免疫抑制剤の内服は必要ですが、腎臓の働きの全てをほぼ復活させることができる、慢性腎不全に対する現状では唯一の根治的治療法です(ただし将来再生医療が発展すると状況が変わる可能性はあります)。
腎移植には、ご家族から腎臓を頂いて移植する『生体腎移植』と、お亡くなりになった方のご厚意で提供いただいた腎臓を移植する『献腎移植』があります。
現在、日本の透析患者さんは約33万人で、高齢者でも透析を始められることが多くなり、年々増加傾向にあります。最近の本邦での献腎移植実施件数は年間約160件程度で、生体腎移植を併せると年間に約1600-1700件の腎移植術が全国で行われています。
大阪医科薬科大学病院でも20世紀後半から献腎移植医療に取り組んできており、日本腎移植ネットワークに腎臓移植施設として登録しており積極的に『献腎移植』を推進していますが、献腎移植を受けられる方は年間数例にとどまっています。献腎移植の平均待機年数は日本では15年以上であり、その間は透析療法をしながら待機することとなります。本邦では、『献腎』が提供される件数が海外に比し極めて低いため、ご家族の一員の善意と厚意による無償の腎提供により『生体腎移植』が行われる例が相当多くなっているのが現状です。
当院の『生体腎移植』医療の特徴は、低侵襲手術とエビデンスに基づいた周術期の全身管理です。
またコメディカルとの綿密な連携も行っております。 低侵襲手術として、ドナーからの腎採取は小さな傷から腎を取り出す体腔鏡手術によって行っています 。移植前の全身管理や透析管理、血漿交換などの必要な方には当院の血液浄化センターと密接に連携をとり、手術後も腎不全・腎移植総合管理センターにて、移植後の腎機能保持に極め細やかな周術期の対応を心掛けています。腎不全・総合管理センターについては後述します。
(上記@.A 文責 能見)
2013年に、医師、臨床工学技士、栄養士、薬剤師、ソーシャルワーカー、看護師、医療事務で構成される、トータルリーナルケアを行う腎不全・腎移植総合管理センター(Total Renal Care Center)を開設しました。
当センターでは幅広く関連施設からの腎不全患者様を受け入れ、保存期腎不全管理ならびに腎代替療法導入を行っております。
当センターの移植医をチーフとする医療チームにより行われている。カンファレンスを定期的に行い、患者教育・指導、関連施設での通院治療の継続支援など、腎不全患者が安心した治療を受けられるようチーム一体となってサポートを開始した。より質の高い腎不全医療を提供できるようにし、以降症例数は急激に増加してきました。特に腎移植の分野での進歩は著しいです。
腎不全・腎移植総合管理センター設立以降、病床の稼働率は上昇し、患者数は増加しました。血液浄化センターでは、年間約3768名の治療を行っており、前年度より31%の増加しております。腎代替療法選択の内訳は、従来と比べ大きく変化しました。血液透析67.6%、腹膜透析14.7%、腎移植17.6%と、腎移植の選択率が非常に高いのが特長です。日本における割合 (1%未満)と比較してかなり大きいことは特筆すべき点です。腎移植に精通したスタッフによるチーム医療が行われるようになった成果があらわれています。
当科では、腎不全医療の中でも特に腎移植に力を入れています。腎不全の段階より、移植手術から術後まで、医療チームが関与することで、患者様に安心感と質の高いケアを提供することができるようになりました。その結果、腎移植件数も大きく増加してきています。
体腔鏡手術は、1990年代以降急速に発展してきた「大きくお腹を切らない」新しい手術方法で、手術器具やビデオモニター装置などの開発・改良により、さらに安全かつ確実な治療法となりつつあります。
従来、生体腎移植のドナー腎採取術では、安全に腎臓を取り出すためには20cm程度の大きな傷が必要でした。しかし、ドナーは移植手術においては決して有病者ではなく健康なボランテイアであり、手術などの侵襲は可能な限り最低にとどめられるべきです。
「体腔鏡ドナー腎採取術」は、1995年に海外において報告されて以来、国内においても多くの施設で症例が重ねられています。当科においても、2001年より「体腔鏡下ドナー腎採取術」が開始されました。
8cm程度の傷から腎臓を取り出すので、術後の疼痛も少なく、早期離床、早期退院が可能で、ドナーの術後のQOL(生活の質)の向上に貢献しています。
また、従来の方法で取り出した場合と同様、レシピエントの移植後腎機能も良好です。