放射線診断学
放射線腫瘍学教室 / 放射線 診断 学教室
教授ご挨拶
放射線診断学教室では、画像診断・核医学・インターベンショナル・ラジオロジー(IVR, 画像下治療)の分野を担当します。私自身の専門はIVRで、がん・脈管・消化器・泌尿生殖器・救急領域などのカテーテル治療や血管塞栓物質の研究に携わってきました。特に国内で専門医が少ない脈管奇形(血管腫・リンパ管腫)やオスラー病(遺伝性出血性末梢血管拡張症)の集学的治療にも取り組んでいます。
さて、身体を傷つけることなく体内を映し出す画像診断は、現代医療において全身様々な病気の診断や治療に欠かせない検査となっています。そして、個々の患者さんの病態に適した撮影法を選択し、的確な画像診断を行うには、放射線診断専門医の存在が不可欠です。
画像診断の技術の進歩は目覚ましく、CT・MRI・PET-CTなど高性能の装置を用いた画像診断は、形態的な情報だけでなく血流動態や細胞・分子レベルの代謝や機能に関する情報を多次元的に可視化できます。更に、これらの画像的特徴の定量化により病変部位の遺伝子変異をも反映する可能性も最近の研究で示唆されており、個別化医療の一助として期待されます。また、近い将来は撮影技術の最適化や読影支援において、人工知能の活用も大いに期待される分野です。
一方、IVR(画像下治療)は、血管塞栓術・動注などの血管内治療やCTガイド下穿刺・ドレナージなど、オンコロジー・脈管疾患・救急医療など様々な分野で威力を発揮します。臓器・機能を温存できる負担の少ない治療選択肢は患者さんのQOL維持に大いに役立ちます。
日進月歩で進化する画像撮影技術やIVRのデバイスを駆使して患者さんのニーズに応えるためには、放射線診断医自身も切磋琢磨して、診療・教育・研究に励まなければなりません。教室一丸となって次世代を担う人材を育成し、最先端の画像診断と低侵襲的なIVRで患者さんに優しい医療を実現することが、私達の使命と考えています。
平成4年 | 大阪大学医学部 卒業 |
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大阪大学医学部附属病院 研修医(第一内科・放射線科) | |
平成6年 | 大阪労災病院 放射線科 研修嘱託医 |
平成8年 | りんくう総合医療センター 放射線科 医員 |
平成12年 | 大阪大学 放射線医学講座 助教 |
平成13年 | 米国Yale大学 放射線科 客員助手 |
平成23年 | 大阪大学 放射線医学講座 講師 |
平成26年 | 大阪大学医学部附属病院 IVRセンター長 |
平成30年 | 大阪大学 放射線医学講座 准教授 |
平成31年 | 大阪大学大学院附属病院 放射線診断・IVR科 病院教授 |
令和元年 | 大阪医科大学 放射線診断学教室 教授 |
放射線診断科の診療について
大阪医科大学病院における放射線診断業務は、単純X線・マンモグラフィ、消化管造影、CT、MRI、核医学検査、血管造影・IVRなど多岐に渡ります。以下、代表的な画像検査やIVRについてご紹介します。
CT
X線を回転させながら人体に照射し、計測されたデータをコンピュータで解析することで体の断面を詳細に画像化する検査法です。近年、検出器の多列化(マルチスライスCT)によって短時間で高精細な画像を取得することできるようになり、胸部や腹部の検査も非常に短時間の息止めで検査することができ、患者さんの負担も軽減されています。
また薄いスライスデータから血管や骨などの三次元(立体)画像を作成することができ、診断、治療、手術前の支援画像として必要不可欠なものとなっています。当院では、320列Area Detector CT(Canon Aquilion ONE )、80列マルチスライスCT(Canon Aquilion PRIME)をはじめ4台のCT装置が稼働しています。320列CTは面検出器を搭載し、1回転、0.35秒で体軸方向16cmの広い範囲での撮影が可能であり、特に心臓や脳血管検査で大きな威力を発揮しています。
また逐次近似再構成法の原理を応用した被ばく低減技術も導入され、低被ばくで高画質のCT画像が得られるようになり、様々な領域に応用されています。
その他、CT透視下で、肺、骨などの病変の一部を穿刺、採取するCTガイド下生検や腹部、骨盤内の膿瘍を穿刺して、チューブを留置するCTガイド下ドレナージ術なども行っています。
MRI
MRIは高磁場と電磁波を用いた撮像装置で、放射線を用いない非侵襲的な検査法です。撮像条件を変えることによって、水の画像、血管の画像、脂肪の画像など、組織の性状の違いをより鮮明に描出し、診断することができます。
当院では、3テスラ装置2台、1.5テスラ装置2台が稼動し、幅広い領域で、様々な内容の検査を行っています。3テスラ装置はより強力な磁場を用いることで、特に脳神経や整形領域で鮮明な画像を得ることができます。
さらに、腹部領域や乳腺、心臓などの領域でも、1.5テスラを凌ぐ詳細な撮像ができます。
また、併設の健康科学クリニックと協力し脳ドック検査を行い、脳梗塞や脳動脈瘤の診断、あるいはアルツハイマー病や正常圧水頭症の早期発見に役立てています。
MRIでは検査目的、臓器別に、個々に撮像方法を変更する必要があり、スタッフ全員が知識と教育のレベルアップに取り組んでいます。
IVR
(Interventional Radiology)
IVRは、インターベンショナル・ラジオロジーの略で、「画像下治療」と和訳されています。超音波・X線透視・CTや血管造影で体内の様子を映し出しながらカテーテルと呼ばれる細い管や針を用いて、できる限り体に傷を残さずに処置や治療を行うものです。
画像診断の治療的応用であり、外科的手術に比べて体への負担(侵襲)が少ない点が特徴です。病気による症状の改善、臓器機能の温存、短期間の入院による早期社会復帰など、患者さんの生活の質(QOL)の維持にも役立つ新たな治療選択肢です。画像診断をもとに病変部位への到達方法や薬剤・器具を適切に選択するなど、放射線診断医が長年培ってきた能力や技術が活かされています。
当科では、腫瘍や血管の病変を中心に全身の幅広い疾患を対象に、「さす」「いれる」「広げる」「つめる」「とる」「だす」など色々な手技を行なっています。
当科では院内各科と協力して以下のようなIVRを実施しています。
がんや良性腫瘍 | |
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● 肝腫瘍、腎腫瘍、頭頸部腫瘍、骨軟部腫瘍など多血性腫瘍に対する腫瘍塞栓術 | |
● 膀胱癌に対するバルーン閉塞下動注化学療法(BOAI) | |
● 胃静脈瘤に対するバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術 | |
● 子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術(UAE) | |
動脈系 | |
● 内臓動脈瘤、動静脈奇形(AVM)、大動脈瘤ステントグラフト治療後エンドリークに対する血管塞栓術 | |
● 外傷性・医原性出血、消化管出血、喀血、産科出血に対する塞栓止血術 | |
門脈系 | |
● 胃静脈瘤に対するバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO) | |
● 肝胆道がんの拡大肝切除前の門脈塞栓術 | |
静脈系 | |
● 中心静脈ポート留置 | |
● 静脈サンプリング(原発性アルドステロン症・膵神経内分泌腫瘍など) | |
● 精索静脈瘤・骨盤鬱血症候群に対する塞栓術(症候性や結紮術後の再発など) | |
● 下肢静脈奇形に対する硬化療法 | |
リンパ系 | |
● リンパ管奇形(リンパ管腫)に対する硬化療法 | |
● 乳糜胸・胸管損傷に対するリンパ管造影 | |
CTガイド下処置 | |
● CTガイド下腫瘍生検、膿瘍・嚢胞ドレナージ など |
特色(独自性)のあるIVRの取り組みについてご紹介します。
1 | 進行膀胱癌のバルーン閉塞下動注療法(BOAI) |
● 膀胱温存を目的として、独自に開発したダブルバルーンカテーテルを用いたバルーン閉塞下動注療法(BOAI)を行います。 | |
● 泌尿器科や放射線腫瘍科と連携し、全身化学療法や放射線治療の併用など集学的治療の一環として行います。具体的な治療方針については、泌尿器科の受診が必要です。 | |
2 | 脈管奇形(いわゆる血管腫・リンパ管腫) |
● 動静脈奇形(AVM)・静脈奇形・リンパ管奇形・混合型脈管奇形などに対して、血管塞栓術や硬化療法などの血管内治療を行います。レーザーや手術など院内各科と協力体制の構築を目指しています。(疾患・部位・病状によっては、行えない場合もあります。) | |
● 巨大・重症例は、指定難病・小児慢性特定疾病にも指定されています。国内に専門施設が少ないため、他府県からのご紹介の相談にも対応しています。 | |
3 | オスラー病(遺伝性出血性末梢血管拡張症) |
● オスラー病は、全身性に毛細血管拡張やAVMを合併する疾患です。当科では、主に肺AVMのカテーテル塞栓術を行います。肺以外にも、鼻血、脳・脊髄・肝臓・消化管のAVM、肺高血圧症・心不全など様々な病状を呈するため、院内各科と協力体制の構築を目指しています。 | |
● 指定難病・小児慢性特定疾病に指定されています。国内に専門施設が少ないため、他府県からのご紹介の相談にも対応しています。 | |
4 | 子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術(UAE) |
● 過多月経や圧迫症状を呈する内科的治療抵抗性の症候性子宮筋腫に対する新たな選択肢として、子宮動脈塞栓術(UAE)の実施を産婦人科と行なっています。 | |
● 手術困難例、核出術後再発例、子宮温存希望例などが良い適応と思われます。 | |
● UAEに関する詳細はこちらをご覧ください。 | |
● UAEは子宮筋腫に対する治療法の一つの選択肢です。子宮筋腫に対する様々な治療法についてはこちらをご覧ください。 |
核医学
核医学検査は、トレーサー(放射性医薬品)を体内に投与し、トレーサーの分布、動態を画像化、計算する検査法です。
放射性医薬品を投与しますが、被爆量が少なく、副作用が少ない非侵襲的な検査法です。核医学画像は機能画像と呼ばれ、CTやMRIなどの形態画像とは異なった情報を提供し、CT、MRIで検出困難な異常を検出することもできます。
また定量性に優れ、負荷検査も可能です。負荷検査では安静時と負荷時の変化を見ることで組織の機能をより詳細に評価できます。脳血流シンチグラフィ、心筋シンチグラフィ、骨シンチグラフィ、ガリウムシンチグラフィが代表的ですが、そのほか肺、消化管、肝臓、腎臓、内分泌臓器(甲状腺、副甲状腺、副腎など)と多くの領域で活用されています。最近では、ドーパミン受容体を画像化するDATスキャンやソマトスタチン受容体を画像化するオクトレオチドシンチグラフィ、乳癌や悪性黒色腫の術前診断としてのセンチネルリンパ節シンチグラフィも行っています。
当科では、キャノン社製のSPECT装置2台(GCA9300R、Symbia E)が稼動し、検査を行っています。私達は核医学の画像とCT、MRIの融合や呼吸停止撮像法、吸収減弱補正の最適化などによって、より精度の高い画像・診断を追求しています。 平成26年10月からはGE社製のPET-CT(Discovery 710)も稼働を開始し、現在は大学内にある関西BNCT共同医療センターにてFDG製剤を中心に検査が施行されています。
また、診断以外にも核医学治療である内用療法として、アルファ線核種であるゾーフィゴ®を用いた去勢抵抗性前立腺癌の骨転移に対する治療など行っております。
マンモグラフィ検査
(乳房レントゲン検査)
マンモグラフィは、乳房専用のX線撮影による検査法で、検診、精密検査、術後の経過観察に用いられています。
当院ではフラットパネルディテクタ(FPD)搭載デジタルマンモグラフィ装置が稼動し、高分解能で高画質な画像を提供しています。
マンモグラフィは、通常、左右の乳房を片方ずつ、2方向から撮影します。この際、乳腺と病変の重なりを少なくするために診療放射線技師が乳房を前に引き出し、手で広く伸ばし、圧迫板で固定して撮影します。圧迫により厚みが減ると、患者様の被ばく量を減らす効果があります。患者様にはできるだけリラックスしていただき、可能な範囲で圧迫し撮影を行います。
良いマンモグラフィには高性能の撮影装置と高い撮影技術が必要です。 また、悪性を疑う病変に対して、精密検査であるマンモグラフィを用いた生検(ステレオガイド下マンモトーム生検)を実施しています。