本課題では太もも付け根の画像データを使って骨強度指標を計算し、標準値を決めて、骨折を予測するための値を調べます。
そのため、1996年に開始した「骨粗しょう症性骨折の予防のための疫学調査」を受けていただいた皆さま全員の1996年当時のデータ、及び追跡10年次(2006年)、15年次(2011〜2012年)、20年次(2015〜2017年)調査を受けていただいた方の太もも付け根の画像を用います。
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日常生活の中で、沢山歩いている人ではそうでない人に比べ骨にかかる力が多いため骨密度が高くなる可能性があります。しかし、「沢山歩く」や「あまり歩かない」に関して具体的な歩数の値は明らかにされていません。
そこで、本課題では15年次(2011〜2012年)調査を受診した方の測定した歩数の20年次(2015〜2017年)調査までの約5年間の骨密度減少率に対する影響について検討します。
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サルコペニア(加齢に伴う極端な筋肉減少)の判定には、両腕と両脚の筋肉量(四肢骨格筋量)が用いられています。四肢骨格筋量は体の大きさと相関するため、身長や体重、BMI値(体重/身長2乗)で割り算した値(補正値)が使われています。ところが問題点として、加齢により身長が縮むと、身長で割り算した四肢骨格筋量の補正値は計算上高く算出され、サルコペニアと判定されにくくなる可能性があります。
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本JPOS研究(骨粗しょう症性骨折の予防のための疫学調査)は、1996年の開始以来、近畿大学医学部公衆衛生学教室を主管施設、伊木雅之同教室主任教授を研究責任者として実施され、得られたレントゲン写真や血清、カルテ等の試料および情報は同教室内で保管されてきました。2022年3月末日付けで伊木教授が定年退任することに伴い、試料および情報のすべてを大阪医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室に移管し、引き続き保存することになりました。この移管は大阪医科薬科大学と近畿大学医学部の倫理審査委員会で「骨粗しょう症性骨折の予防のための疫学調査ー第7回骨粗しょう症検診」の研究課題名で審査され、承認されました。それに伴い、2022年4月1日に移管を完了しました。
下記のリンクから、上記、試料および情報の移管に関する情報公開文書をご覧いただけます。対象者の方(あるいは代理人)の申し出により、大阪医科薬科大学で保管している試料および情報の研究利用を取りやめることも可能です。研究利用をお望みでない方は情報公開文書にお示ししている連絡先までご連絡ください。
・移管計画の情報公開文書は、こちらからご覧になれます。
・大阪医科薬科大学倫理委員会の審査結果は、こちらからご覧になれます。
・近畿大学医学部倫理委員会の審査結果は、こちらからご覧になれます。
JPOS研究では、約4000人の方に研究にご協力いただいています。そのうち、ほぼ全員の方から、血液をご提供いただき、現在は大阪医科薬科大学医学部衛生学公衆衛生学教室で冷凍保存しています。これらの
保存血清、血漿、並びにカルテ等の情報を用いた研究の実施にあたっては、まず研究計画書を大阪医科薬科大学をはじめとする参加機関の研究倫理委員会に提出し、「疫学研究に関する倫理指針」や「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」、2015年以降は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(文部科学省・厚生労働省 平成26年12月22日、平成29年2月28日一部改正)」、さらに2021年以降は「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(文部科学省・厚生労働省・経済産業省 令和3年3月23日、令和4年3月10日一部改正)」にしたがい、医学研究における倫理的配慮等について厳密な審査を受け、その承認を経て実施されています。
現在までに保存された試料や情報を用いて行われた検査や解析、並びに今後の計画は本ページ後段と研究結果のページにご紹介した通りです。いずれの場合も、検査結果を誰のものかわからないように匿名化して、各グループごとの検査データの傾向を比較する研究で、ひとりひとりの検査結果を取り上げて検討することはありません。また、これらの検査は研究途上のものが多く、現状では原則として結果をお返ししていません。それでも、結果をお知りになりたい方、あるいはご自分の試料を研究に使用して欲しくないとお考えになる方は、その旨を下記にあります本研究の事務局までお伝えくださいますようお願いいたします。
なお、研究利用を拒否されても、診療の機会など、いかなる意味においても不利益をこうむることはありません。また、今後、実施される本研究の追跡調査を受診することもこれまで同様していただけます。
JPOSコホート研究を用いたサルコペニアの判定に有用な骨格筋量指標の探索:指 極を用いた検討
加齢による筋肉減少を呈するサルコペニアを診断する際、四肢の筋肉量を身長の2乗で除した値が用いられていますが、加齢により身長が短縮すると、この値が大きめに算出されるため
、サルコペニアを見逃してしまう可能性があります。一方、両腕を左右に広げた時の左右の指先同士の距離(指極)は加齢による変化が少ないことが知られています。そこで、四肢骨格筋量を指極の2乗で除した値のがサルコペニアの診断に有用であるかどうかを検討します。
・研究計画の概要は、こちらからご覧になれます。
・大阪医科薬科大学研究倫理委員会の審査結果は、こちらからご覧になれます。
現在実施中の研究はありません。
JPOSコホート研究を用いた血清アディポネクチンの測定
骨粗鬆症に糖尿病や動脈硬化、メタボリック症候群が関係する可能性があるので、15年次追跡時にそれらの検査を追加しました。その後、新たな糖尿病の発生や耐糖能の悪化にアディポネクチンという物質が関係することが指摘されましたので、その影響を見るべく、その保存献体を用いた血清アディポネクチンの測定を共同研究施設の徳島大学病院糖尿病対策センターで行う研究を開始しました。アディポネクチンを測定することにより、メタボリック症候群や糖尿病の将来の発生を予測できるようになることが期待されます。
・研究計画の概要は、こちらからご覧になれます。
2021年12月13日付けで2023年3月末まで研究期間が延長されました。
・近畿大学医学部倫理委員会の当初の審査結果は、こちらからご覧になれます。
・近畿大学医学部倫理委員会の変更時の審査結果は、こちらからご覧になれます。
大腿骨近位部骨密度画像の3次元再構成による骨強度指標の有効性評価
JPOSコホート研究では調査の度に大腿骨近位部の骨密度を測定し、その結果を受診者にお返しし、健康管理に役立てていただいております。そのX線画像が現在も保存されています。それを再解析して、三次元構造強度指標を求める新しい方法がスペインの3D-Shaper社(旧Galgo
Medical社)で開発され、それによって将来の骨折を従来の骨密度より正しく予測できることがわかりました(調査結果のページ参照)。そこで、その方法をさらに改良していく予定です。
現在、新たな利用計画はありません。
Trabecular Bone Score (TBS)値の計算
TBSは腰椎骨密度を測定する際に用いられる2重エネルギーX線吸収法による画像を再解析して得られます。したがって、あらたな検査を受けて頂くことなく、保存している画像を専用のソフトウェアで解析するだけとなります。JPOSコホート研究では、ベースラインから10年間の骨折の発生状況をつかんでいますので、ベースライン時点でのTBS値を計算できれば、その後の起こった骨折のリスクを予測できるかどうかが検討できます。そこで、それを実施しました。その成果は調査結果のページに記載の通りです。
大腿骨近位部構造解析(HSA)の実施
HSAはHip Structure
Analysisの略称で、太ももの付け根の骨の構造的な強さを表す検査です。大腿骨近位部の骨密度を測定する際に用いられる2重エネルギーX線吸収法による画像を再解析して得られます。したがって、あらたな検査を受けて頂くことなく、保存している画像を専用のソフトウェアで解析するだけとなります。これまで、A、C、D、E、Gの地域のベースライン研究時に撮影された画像を解析し、HSA指標の日本人標準値を求めたり、10年間のHSA指標の変化の様相を明らかにして、それには体重の影響が大きいことを見出し、骨折・骨粗鬆症予防のおける体重に関する指導に活かされています。
大腿骨近位部構造解析(HSA)の実施
HSAの経年的な変化とそれに影響する要因を明らかにするために、C、E、Gの地域の10年次追跡時に撮影された画像を解析し、10年間のHSA指標の変化の様相を明らかにして、それには体重の影響が大きいことを見出しました。
この結果は、骨折・骨粗鬆症予防のおける体重に関する指導に活かされています。
骨代謝マーカー
ベースライン研究後に開発された骨代謝マーカーが骨密度の変化や骨折の発生に関連しているかどうかを検討しています。測定したのは追跡調査を一回以上受診して頂いた方の血液です。検討できたのは、以下のとおりです。骨の形成状態を表すとされるP1NP
(Type 1 collagen N-terminal propeptide)と骨の吸収状態を表すとされるCTX (Type 1 collagen
C-terminal telopeptide)ですが、現状では臨床的に役立つ成果は得られていません。
腎機能指標
ベースライン時点で測定したクレアチニンは測定法が現在のものとは異なり、推定糸球体濾過量(eGFR)を推定するために適切ではないので、新しい方法で再測定しました。また、クレアチニンは筋肉量が多い人では値が高くなり、したがって腎機能を悪く評価される可能性があります。この欠点がない腎機能指標としてシスタチンCが最近用いられるようになりましたので、この測定をしました。腎機能の評価では、旧法によるクレアチニンと高い相関を示し、旧法を大きく上回る臨床的意義は見いだせていません。
貯蔵型ビタミンD
ビタミンDは骨を形成する上で、無くてはならないビタミンで、その活性型である1,25二水酸化ビタミンDは骨代謝のホルモンとして働き、その血中濃度は厳密に制御されています。一方、食事から摂られたビタミンDや皮膚で合成されたビタミンDは
25水酸化ビタミンDとして貯蔵され、その血中濃度はビタミンDの充足状態を表します。しかし、その濃度と骨密度や骨折リスクとの関係は明らかではありませんでした。そこで、25水酸化ビタミンD濃度を測定し、その後15年間の骨折発生状況との関係を検討しました。その結果、ビタミンD濃度が低いと骨折リスクが有意に上昇することが明らかになり、国際雑誌Osteoporosis
Internationalに掲載されました【詳しくはこちら】。なお、この測定はロッシュ・ダイアグノスティックス株式会社の体外診断薬治験として行われました。
この研究によって、血中25水酸化ビタミンD濃度が骨粗鬆症診療において健康保険で測定できるようになりました。
骨代謝に関連するマーカー
直接、骨芽細胞や破骨細胞の働きによって生み出されるものではありませんが、骨密度や骨折リスクに関連があると考えられるマーカーを測定しました。測定したのは追跡調査を一回以上受診して頂いた方の血液です。測定したマーカーは、以下のとおりです。
【高感度C反応性蛋白】 非特異的な炎症マーカーで、骨折との関係が疑われています。現状では、結果はかなりばらつき、さらなる検討が必要です。
【ホモシステイン】 ホモシステインを下げる効果のあるビタミンB12を投与すると骨折が減るという研究結果があり、骨折との関係が疑われています。JPOS研究では意義ある結果は見いだせていません。
【ペントシジン】 骨を構成する蛋白質の一つであるコラーゲンに加齢や糖尿病に伴って生じる加齢架橋物質で、この値が上がるとコラーゲンが硬くなり、骨に弾力が無くなって折れやすくなると言われるものです。現在、骨折リスクとの関係を解析中です。
DNAはデオキシリボ核酸の略称で、この解析から遺伝情報を読み解くことができます。ベースライン時点ではビタミンD受容体遺伝子の多型(人によって異なる遺伝子の型)を解析することをお伝えし、10年次検診では新たに骨代謝に関連する遺伝子多型や動脈硬化に関連する遺伝子多型を検討することをお伝えしてきました。現在までに検討した遺伝子多型は以下のとおりです。ただし、いずれも骨密度に対する影響はきわめて小さく、残念ながら、臨床応用にいたったものはありません。
ビタミンD受容体遺伝子多型
ビタミンDは骨代謝を制御するホルモンのひとつで、その受容体はビタミンDのシグナルを細胞の核内に伝える入口となっています。このビタミンD受容体遺伝子の変化はビタミンDの骨代謝への影響を変化させる可能性があるので、検討しました。ビタミンD受容体遺伝子のエクソン2にある制限酵素Foc
Iによって認識される多型、イントロン8にある制限酵素Apa Iによって認識される多型、エクソン9にある制限酵素Taq
Iによって認識される多型、並びにプロモーター領域にあるCdx-2結合領域の多型の解析をしました。いずれも骨密度、あるいはその変化について臨床的、あるいは予防医学的に意味のある影響は認められませんでした。
エストロゲン代謝酵素群の遺伝子多型
エストロゲンは卵胞ホルモンという女性ホルモンの1つで、骨吸収を抑制し、骨密度を保つする働きがあります。閉経はエストロゲンの卵巣からの分泌低下によっておこりますが、同時に骨吸収も亢進し、骨密度が下がります。これが、骨粗鬆症が男性より女性に多い理由です。そのエストロゲンを代謝する酵素にはいくつかの遺伝子多型があり、エストロゲンを通じて骨代謝に影響する可能性が考えられました。そこで、エストロゲンを代謝するチトクロームP450という酵素群(Cyp11A1,
Cyp17, Cyp19, COMT)の遺伝子多型と骨密度との関係を解析しましたが、 臨床的、あるいは予防医学的に意味のある影響は認められませんでした。
転写因子PPARγ遺伝子多型
骨を作る骨芽細胞は間葉系幹細胞から分化しますが、この幹細胞は筋肉や脂肪細胞にも分化でき、いずれに分化するかは転写因子の働きによってきまります。PPARγは間葉系肝細胞を脂肪細胞に分化させる働きをもっており、このはたらきによっては、骨芽細胞への分化が影響を受ける可能性があります。そこで、PPARγ遺伝子の多型の骨密度への影響を検討したところ、有経者では、TT型あるいはTC型に比べてCC型では骨密度が高い傾向にありましたが、閉経者ではこのような傾向は見られませんでした。
その他の遺伝子多型
骨代謝マーカーの1つであるオステオカルシンやTGFβの遺伝子多型と骨密度との関係も調べましたが、特に有用な結果は得られませんでした。その他、骨代謝に影響する可能性のある多数の遺伝子多型を調べましたが、臨床的、あるいは予防医学的に意味のある影響は認められませんでした。これまで調べた遺伝子多型の識別番号は以下の通りです。
rs204993, rs404860, rs11915523, rs12479765, rs4946578, rs9275698, rs1007349, rs2856705, rs2858308,
rs9482177, rs707928, rs7912195, rs1572349, rs6088776, rs11002816, rs4650450, rs13396400, rs3129943,
rs7105630, rs12597024, rs2256594, rs206015, rs6591031, rs4748864, rs10888608, rs3908093, rs605771,
rs7170529, rs320026, rs7775228, rs2399441
遺伝子解析研究は終了しました。
2006年に実施されたJPOS研究の10年次追跡調査時に遺伝子関係の研究計画についてご説明し、ご承諾をいただきました。その時、ご承諾戴いた研究期間の10年が経過しましたので、DNA試料は全て廃棄し、DNA試料を用いた研究は終了いたしました。
JPOS研究事務局
事務局長 玉置淳子
大阪医科薬科大学医学部衛生学公衆衛生学教授
郵便番号 569-8686
高槻市大学町2-7
電話 0726-83-1221 内線2651
メール hyg_ph@ompu.ac.jp
〒569-8686
高槻市大学町2-7
大阪医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学
TEL 0726-83-1221 内線2651
メール hyg_ph@ompu.ac.jp