INTRODUCTION

いつからか、テレビの天気予報で紫外線情報が提供されるようになった。かつて日焼けには「健康的」などのイメージがあったのに対して、今では紫外線による皮膚へのダメージが健康リスクとして認識されている。紫外線を浴びると皮膚がんを発症するおそれがあり、難病指定されている「色素性乾皮症」では激しい光線過敏症状が生じて、容易に発症する人もいる。大学院時代にこの難病と出会った皮膚科学教室の森脇真一教授は、患者本人に加えてその家族のQ.O.Lも低下させている実態を目の当たりにし、何とかして治療法を見つけたいと思った。色素性乾皮症の診療ガイドライン作成にも携わった森脇教授は、患者さんを救いたい一心で、今も治療法開発のための研究に取り組み続けている。

子どもを苦しめる遺伝性の難病「色素性乾皮症」

森脇 真一 教授
森脇 真一 教授

紫外線を浴びると、皮膚にはさまざまな変化が起こる。いわゆる日焼けに始まり、光老化の一種としてシワやシミなどができたり、さらには皮膚がんを起こすリスクもある。また健常人なら変化を起こさない程度の紫外線にさらされただけでも、異常な反応を引き起こす遺伝性の難病もあり、その1つが色素性乾皮症である。

「大学院に進んで皮膚科の配属となり、この病気と出会いました。それから37年、ずっと光皮膚科学に取り組んできたのは、難病に苦しむ子どもたちをなんとかして救いたいと思うからです」

色素性乾皮症は、遺伝性の光線過敏症である。健常な人なら、紫外線により皮膚の細胞に何らかのDNA損傷を起こしても元通りに修復される。ところが色素性乾皮症の患者は、損傷修復機能が先天的に欠けているため、紫外線を浴びるだけでさまざまな症状を引き起こしてしまう。
異常なサンバーン反応を起こすケースがあり、光老化から皮膚がんを若年で多発する傾向もみられる。さらに原因不明の中枢・末梢神経症状が進行して30歳までに死亡するケースも多い。色素性乾皮症は小児慢性特定疾病であり、指定難病でもある。日本では2万2000人に1人の割合でみられる。

「大学院時代に色素性乾皮症に加えて、これも遺伝性の皮膚疾患であるコケイン症候群の患者さんとも出会いました。いずれも遺伝性の疾患であるため、診断そのものが簡単にはつきません。そのためまず診断法を学んだ後、診断を続けるうちに患者である子どもや、そのご家族の方とも話をするようになりました。やがて家族会の皆さんとお付き合いするなかで、自分の力でこの病気を治したいと考えるようになったのです」

色素性乾皮症の発生機序の大枠が解明されたのは1968年、それ以降、症状発症につながる原因遺伝子が探索されてきた。森脇教授が大学院に在学中に2つ、アメリカ留学中に4つが見つかり、今では合計8つの遺伝子の関わりが明らかにされている。

紫外線は皮膚にどのような影響を与えるのか

紫外線によってDNAが損傷しても、通常なら損傷を除去した後に修復合成が行われる。一連のプロセスはヌクレオチド除去修復(nucleotide excision repair:NER)と呼ばれ、NERに異常があると、色素性乾皮症やコケイン症候群などの遺伝性疾患を発症する。

光皮膚科学においては、紫外線によって皮膚にもたらされる影響も明らかになっている。紫外線は波長の長いものからUVA、UVB、UVCの3つに分類される。

「急激な日焼けやシミなどを表皮で引き起こすのはUVB、真皮にまで到達して光老化や皮膚がんなどにつながるのはUVAです。UVCはオゾン層によって吸収されるので、基本的に地表に降り注ぐことはありません。ヒトは一生に浴びる紫外線量の50%以上を18歳までに浴びるといわれています。小児は紫外線による皮膚のダメージが蓄積しやすいため、小児期の紫外線対策はとても重要です」

83歳皮膚(同一症例)の組織像
83歳皮膚(同一症例)の組織像

紫外線を急激に大量に浴びると、まずサンバーンと呼ばれる皮膚が赤くなる日焼けを起こし、その後に色素沈着により色が黒くなるサンタンと呼ばれる状態へ移行する。紫外線による慢性皮膚障害としては光老化があり、シミやシワができたりする。高齢者になると同じ人物でも、顔の皮膚など長年にわたって光を受け続けて光老化を起こしている部分と、光の当たらない胸などでは皮膚組織に大きな違いが生じている。この光老化がやがては皮膚がんの発症につながる。

「紫外線の影響は、肌のタイプによっても変わってきます。日本人の肌タイプはⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型の3つに分けられます。Ⅰ型はすぐに赤くなりやすいけれども、あまり色がつかないタイプで、日本人の約18%が相当します。Ⅱ型は70%と最も多いタイプで赤くなって色がつきます。Ⅲ型は赤くなりにくいけれども、すぐに黒くなる。サンバーン・光老化・光発がんのリスクはⅠ型がもっと大きく、Ⅲ型が最も少ないのです」

これら紫外線による被害を防ぐためには、適切な日焼け対策が必要となる。紫外線の強いときには外出を控えて、長袖シャツや帽子で日差しを遮るだけでなく、日焼け止めクリームなどで肌を守るのが望ましい。

「健常な方でも日焼けは防ぐべきです。色素性乾皮症やコケイン症候群の子どもたちの場合は、一年中、帽子、長袖長ズボン、日焼け止めとUVカットレンズメガネなどが欠かせません。それでも親子で頑張っている姿を見ると、早く治す方法を見つけなければと思う気持ちが込み上げてくるのです。よく患者さんの保護者からは、先生の診断が間違っていたらいいのに、といわれます。けれども診断がつくと私は必ず、はっきりと結果を家族に告げます。大切なのはまず気持ちをしっかりと切り替えて、それから先の人生に向き合っていただくことですから」

光にはエイジングケアの可能性も

紫外線は皮膚にダメージをもたらす。だからといって、可能なら完全に避けてしまえば良いのかといえば、そうもいえない。なぜなら、紫外線(UVB)はビタミンDの合成に必要だからだ。ビタミンDには、骨代謝維持や発がん抑制などの重要な機能がある。食品やサプリメントからでもビタミンDは摂取できるが、紫外線を浴びてビタミンDを体内で作り出すことも重要である。

「ただし紫外線を浴びるといっても、真夏にたとえば上半身裸で、がんがん日焼けするといったレベルではありません。仮に真夏の晴れた日の昼ごろに皮膚の25%程度、つまり両腕と顔ぐらいを日に当てるのなら、3分ほど光を浴びれば、必要なビタミンD合成には十分です。だから、放っておくと屋外で遊んでどんどん光を浴びがちな子どもに対しては、紫外線の強い時期に光をしっかり遮る指導が必要です」

子どもが紫外線を浴びると、ドライスキンとなりやすい。ドライスキンになると、紫外線感受性が高まりダメージを受けやすくなる。そのため外出時には十分な遮光対策を行い、外出から帰宅した際には保湿などのスキンケアが必要となる。

各色LED照射の生物作用表
各色LED照射の生物作用表

一方で光はビタミンD合成のほかにも、人体に良い影響を及ぼすことがわかっている。森脇教授らが明らかにしたのは、可視光が人に与える好影響である。可視光であるLEDはその波長(色)により抗菌作用、抗酸化作用、リンパの流れの改善、コラーゲン産生促進などの効果があると考えられている。これを確認するため、教授らは培養線維芽細胞を活用した実験検討を行ってきた。

「研究によりLEDには皮膚細胞を活性化し、コラーゲンやヒアルロン酸の産生を増やし、一方ではメラニン色素の産生を減らすことで、シワ、乾燥肌、シミなどの改善効果を期待できます。LEDの効用に関しては医学的なエビデンスが蓄積してきており、新たなエイジングケアとしての発展が期待されています」

森脇教授のアドバイスにより開発されたLED美顔器は既に市販されていて、利用者の多くから効果があるとの評価が得せられている。

臨床医であり、研究者でもあり続ける

森脇教授は、最先端の研究を続けながらも、常に医師として患者さんと向き合い続けてきた。その理由は、そもそも色素性乾皮症やコケイン症候群などの遺伝性難病を、的確に診断できる医師そのものが日本では不足しているからだ。

「父からはよく、臨床医になるとしても研究は大事だといわれました。さらに恩師たちからは、臨床医学はサイエンスだと教わり、いつしか私自身も、医師は医学者であれとの信念を抱くようになったのです」

難病に苦しむ患者さんを救いたい、その思いに突き動かされた森脇教授は、色素性乾皮症診療ガイドライン改定委員会のメンバーとして、ガイドライン作成にも携わってきた。また「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究」もずっと続けている。この病気を一人でも多くの人に知ってもらうため、色素性乾皮症に苦しむ患者を主人公とする映画・TVドラマ『タイヨウのうた』の監修も務めた。

「もちろん、治療法の研究はずっと続けています。簡単に治療法が見つかるわけではありませんが、遺伝性疾患であり、関連する遺伝子は明らかになっています。だから、何らかの物質を使って遺伝子に作用できれば治療の可能性はあると考えています。もちろん、そんな物質が容易に見つかるわけもなく、だから私は30年以上も取り組んでいるのです。けれども、なんとかして治療法を見つけて、この病気に苦しむ患者さんを救いたい。その一念で毎日患者さんと向き合い、研究にも取り組み続けています。医師であり研究者でもある私のスタンスは、これからも変わることはありません」

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