心不全

心不全とは

心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を担っています
心臓は、生命の維持に必要な酸素と栄養分を含む血液を全身に送り出しています。その量は1日約8000リットルにもおよびます。心臓から送り出された血液は、筋肉やほかの臓器を巡って心臓にまた戻ってきます(これを血液循環といいます)。

ポンプ機能が低下すると
心臓のポンプ機能が低下すると血液循環がうまくいかなくなり、心臓から送り出される血液量が減ります。しかし、人間の体はなんとか正常の状態を保とうとして、心臓を大きくしたり、心拍数を多くしたり、あるいは手足の血管を収縮させたりして、血圧を維持しようと頑張ります(これを代償作用といいます)。しかし、この代償作用も長くは続きません。やがて心臓は代償することに疲れ、さらにポンプ機能が低下することになります。そうすると、肺に水が溜まったり、足がむくんだりして,息切れや疲れやすいなどの症状が現われてきます。このような状態を心不全といいます。

心不全の原因

心不全の原因には高血圧、心筋症、弁膜症、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、先天性心疾患といったものがあります。そのほか、心不全は甲状腺の病気やある種の栄養分不足によっても引き起こされます。

心不全の症状

心不全には大別すると2つの種類があります。

●急性心不全
呼吸困難、咳、息切れ、動悸、易疲労感、四肢冷感、尿量減少

●慢性心不全
急性不全の症状が持続的に起こります。そのほか、むくみ(浮腫)、全身倦怠感、食欲不振、精神神経症状

これらの症状はすべての患者さんにみられるわけではありません。心不全の原因や進行度合いよっても異なります。
初期の頃には運動をしたときなどに息切れや動悸を感じます。しかし、心不全の進行にしたがって、階段を上がるような軽い運動でも症状があらわれます。さらに進行すると、じっとしていても息切れが起こるようになり、最終的には寝ていても咳や呼吸困難が起こるようになります。
血液のうっ滞が起こると、静脈という血管から水分が漏れ出し、胸やお腹のスペースに溜まるようになります。これが、心不全のときに足がむくむ理由です。さらに症状が重くなると、腎臓にも血液がいきわたらなくなり、尿量が減少してきます。

心不全の重症度分類

NYHA(New York Heart Association)心機能分類といって自覚症状から判断する方法が一般的です。
●I度(無症候性)
心臓に何らかの病気はあるが、日常生活に支障をきたすことはない。
● II度(軽症)
安静時および軽い運動時には症状は出ないが、走るなどしたときに疲労感や動悸を感じる。
● III度(中等症~重症)
安静時には症状が出ないが、歩くなどの軽い労作でも疲労感や動悸を感じる。
● IV度(難治性)
安静時にも心不全の症状が出現し、労作によって症状が悪化してしまう。

心不全の診断

●胸部レントゲン写真
心不全では心臓のシルエットが大きくなります。また、肺うっ血や胸水の有無もわかります(下図)


● 心電図
不整脈や心臓肥大の有無がわかります。運動負荷により虚血性心疾患の有無についても調べることができます。


● 血液・尿検査
血液検査ではBNP濃度やNT-proBNP濃度を測ります。これらの値は心不全が重症になるほど高くなるので、重症度や治療効果の判定などに役立ちます。また、血液検査では貧血や腎機能障害の有無などをチェックします。

● 心エコー検査
心臓の動きや血液の流れを画像でみることができます。心不全の原因や心機能に関する多くの情報が得られ、さらには治療効果の判定にも活用できます。


●心臓カテーテル検査
心臓の中にカテーテルという管を入れ、心臓の中の圧力や心拍出量(1分間に心臓が体に送り出している血液量)を測ります。また、冠状動脈に造影剤を注入することにより、心不全の原因疾患の1つである虚血性心疾患の有無や重症度を調べることができます。


● 心臓核医学検査
放射性物質を注射して特殊なカメラで心臓を撮影することにより、心臓の動きや心臓の筋肉内への血液の分布状況を知ることができます。

みなさんが、病院に来られて心不全が疑われたとき、一般的に下図のような診断の流れに沿って、治療方針を決定します

心不全の治療

患者さんの生活の質(QOL)の向上を考慮し、心不全そのものを治療する、心機能悪化の要因を除去もしくは軽減する、そして心不全のもととなっている病気を治療する、という3つの観点より治療法を考えます。
● 心不全そのものの治療
自覚症状を軽減し、進行を遅らせるために、心不全の重症度にあわせて薬物治療と非薬物治療を組み合わせていきます。
● 心不全悪化の要因の除去
禁煙、禁酒、塩分制限などの生活習慣の改善が中心となります。なかでも塩分制限は最も重要で、軽症なら1日7g以下、重症なら1日3g以下の塩分制限が必要となります。適度な運動は、心不全が軽症ならQOLが改善するといわれています。
● 原因疾患の治療
心不全のもととなる高血圧、虚血性心疾患、弁膜症などを治療します。

心不全の薬物療法

●強心薬
カテコラミン、PDE阻害薬、ジギタリスなどがあり、弱った心臓のポンプ作用を強くする薬です。
●利尿薬
体の中の余分な水や塩分(ナトリウム)を尿として排泄し、むくみや肺うっ血を改善します。
●アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)・変換酵素阻害薬(ACE)
亢進したレニン・アンジオテンシン系という昇圧システムを抑えることによって、収縮した血管を拡張させ、心不全の症状を改善します。
●β遮断薬
亢進した交感神経系を抑え、心筋が消費するエネルギーを低下させます。いわば、心臓に休息を与えて保護しながら治していく薬です。

その他の治療法

●心臓再同期療法(CRT)
左心室と右心室が収縮するタイミングが合っていないため、心不全状態に陥ることがあります。そのようなときに、ペースメーカーをつけて左心室と右心室に同時に電気信号を送り、収縮のタイミングを合わせるという治療法です。かなり重症の心不全に施行されます。

下の図は、左心室の収縮のタイミングが遅れている様子を、心臓超音波検査を使って表現したものです。拡張している心筋は青色で、収縮している心筋は赤色で示されています。健康な心臓では、心筋はいっせいに拡張し、いっせいに収縮しますが(AとB)、同期不全があると、左心室の一部は収縮期でも拡張した状態のままです(CとD)。

●植え込み型除細動器(ICD)
心不全では、ときに重篤な不整脈(心室細動や心室頻拍)を起こすことがあります。ICDとは、不整脈の発生を感知して、電気ショックで正常なリズムに戻すための体内植え込み型の機械です。最近では前述のCRTの機能を併せ持ったCRT-Dを使用する頻度が増えています。

●心臓移植
従来の薬物療法でもNYHAIII~IVから改善せず、そのほかの治療によっても無効なほどの重症の場合に行われる治療です。

●運動療法
長期間の安静は、かえって筋力の低下や体の調節能力を低下させ、呼吸困難感や易疲労感の症状を悪化させます。有酸素運動などの軽度な運動は、これらの病態や症状の改善に役立ちます。

●呼吸療法
心不全患者さんの半数以上に睡眠時無呼吸を合併することがわかってきました。CPAP(陽圧マスク、「シーパップ」といいます)などの呼吸補助装置を使用することで、無呼吸回数が減少し、それとともに心機能や心不全の症状が改善することがあります。

文責 伊藤 隆英、岡部 太一

 

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