脳腫瘍の治療

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脳腫瘍の治療

脳腫瘍の治療は、腫瘍の種類とその大きさや位置に応じて行われます。私たちは、脳腫瘍に対して外科手術、放射線療法、化学療法などの治療法を持っていますが、それぞれ長所と短所がありますので、これらを上手く組み合わせて治療を行ないます。


外科手術

従来の放射線療法に加えて、ガンマナイフやエックスナイフ・サイバーナイフなどの定位的放射線手術、さらには重粒子線などを使った治療法まで開発されつつあり放射線療法の進歩は目覚しいものがあります。


定位的放射線手術とは、『-ナイフ』と名がつくので放射線で腫瘍を切り取るイメージを持たれやすいのですが、実際には腫瘍が切り取られるものではありません。1mm の狂いもなく正確に腫瘍の位置をコンピュータに覚えこませて、たくさんの放射線を虫眼鏡のように病変に集中させるため、周囲の正常な脳組織をほとんど被爆させずに病変だけに高線量の放射線を照射することができる治療法です。手術のように正確に病変だけに大量の放射線治療ができることから放射線手術と呼ばれたり、『-ナイフ』と名がついています。この定位放射線手術が広く行なわれるようになり脳腫瘍の治療は劇的に変化しました。


ちなみにわれわれの施設では、エックスナイフを導入し、良い成績をあげています。しかし、脳そのものから発生する腫瘍は、浸みこむように(浸潤性に)増殖し境界がはっきりしないため、この定位放射線手術は適していません。そこでわれわれは、熱外中性子を使ったホウ素中性子捕捉(ほそく)療法(BNCT)を推し進めています。これは、腫瘍にだけ取り込まれる性格の物質を投与し、そこに中性子を照射することで、その物質が取り込まれた細胞だけをやっつけるという治療法です。


理論的には、正常な脳組織をほとんど傷つけることなく、腫瘍細胞のみを細胞レベルで選択的に破壊することが可能です。この治療法により、悪性の脳腫瘍でも従来よりも良い治療成績が得られています。欧米からの紹介患者さんもあります。


化学療法

脳の血管は不要な物質を通さないようにして脳を保護していますが、薬で治療する場合には逆にこれが障壁になります。でも、腫瘍の栄養血管は正常の血管でないので、薬が通りやすくなっています。ところが今まで、一部の脳腫瘍(小児の腫瘍やリンパ腫など)以外には、決定的に効くといえるお薬はありませんでした。そこで、現在までに種々の薬の組み合わせが考えられており、少しずつですが効果的な組み合わせが知られるようになりました。


さらに、2006年9月に新しく認可されたテモゾロマイド(商品名:テモダール®)という薬は、脳から発生した腫瘍に対して、放射線との併用療法によって有意な有効性が証明された薬で、1980年以来の化学療法の進歩と言われています。今後、脳腫瘍の化学療法の中心となっていくことが期待されている薬です。このお薬は、(注射薬ではなく)飲み薬で副作用も少ないため、外来通院でも使用できます。ちなみに今年9月に発売以降、テモダールの使用量は、私たちの施設が日本で最も多かったそうです。
>>  http://www.osaka-med.ac.jp/deps/neu/omcBNCT


温熱療法

腫瘍細胞は摂氏43度1時間で死滅します。時々、高熱の出た癌患者さんから癌が消えた話を聞きますが、温熱が影響したものと思われます。脳腫瘍でもいくつかの施設で行われていますが、驚くほどの効果は得られていません。


遺伝子療法

2種類の方法があります。腫瘍の異常な遺伝子を元に戻して正常の細胞にしようとするものと、特殊な遺伝子をウイルスなどに組み入れ、それを腫瘍に入れて干渉しようとするものです。残念ながら、今の段階では決め手となる方法は見つかっていません。


脳腫瘍の予後

脳腫瘍の予後は、生命予後と機能予後に分けて考える必要があります。日本全国で統計を取っておりますので、生命予後を5年生存率からみてみますと、髄膜腫で96%、神経鞘腫で94%、下垂体腺腫で98%であり、これらが原因で死亡することはほとんどないといってもいいと思います。これに対して脳から発生する腫瘍の生命予後は悪く、良いものでは80%程度ありますが最も悪性と言われるものでは8%程度です。


機能予後においても、髄膜腫などの脳以外の組織から発生する腫瘍では、脳は圧迫されているだけですから、治療後には症状は残りにくく良好です。しかし、脳から発生して脳を壊しながら浸潤していく腫瘍は、進行性の麻痺や言語障害を来しますので、機能予後は悪いということになります。