気管支鏡検査について

1.気管支鏡と目的

肺の病気の診断をするための検査です。
口または鼻からのどの奥を通って、空気の通り道の気管支を観察します(図1)。
直径6mm程度の柔らかく折れ曲がるファイバーで先端にカメラ(図2の対物レンズの部分)があり、
図2のライトガイドから光が出て暗い気管支の中も観察することができます。

図1 図2

気管支鏡の先には穴があいていて(図2の鉗子(かんし)出口)、ここよりさまざまな処置をすることができます。
1)気管支洗浄:気管支を生理食塩水20mlぐらいで洗浄します。
2)気管支肺胞洗浄:肺の末梢(肺胞領域)の病変を調べるために150mlの生理食塩水を注入して肺を洗浄します。
3)生検:図3の生検鉗子(せいけんかんし)を使って肺や腫瘍の組織をとります。
4)擦過(さっか):図3のキュレット、またはブラシで病変部をこすります。
5)吸引生検・細胞診:図3の吸引生検針を使って気管支壁のむこうのリンパ節を突き刺して調べます。

図3


以上を病気の種類により検査項目を選んで検査をします。
たとえば、肺腫瘍が疑われる場合、気管支洗浄、キュレット、生検が行われます。
また間質性肺炎(特発性間質性肺炎の疑い、過敏性肺臓炎、好酸球性肺炎、薬剤性肺炎、サルコイドーシスなど)では、気管支肺胞洗浄と肺生検が行われます。
 検査時間は、検査項目と麻酔方法により異なります。静脈麻酔をして観察、擦過、生検等行うと約1時間ぐらいかかります。
血痰の精査で異常がなければ気管支鏡が入っている時間は10分以内ですが、前後の麻酔と安静で30分ぐらいはかかると考えてください。

2.麻酔と前処置

生検、擦過等の処置が必要な場合(ほとんどの場合が相当します)は、脳梗塞、狭心症その他の病気の場合よく処方される薬ですが、血を固まりにくくす る薬または血をさらさらにする薬(たとえば、ワーファリン、アスピリン、パナルジンなど)は前もって中止する必要があります。検査を受ける前に申し出てく ださい。

 当日は直前の食事が絶食になります(午前中の検査の場合朝食抜き)が、血圧の薬、狭心症の薬などは飲んでおいたほうが良い場合が多いですので前 もって内服薬を教えてください。

検査に出る前に入れ歯のある場合は外しておいてください。検査中に紛失する可能性もあります。

 検査に先立って、まず唾液、痰などの分泌物を減らす薬(硫酸アトロピン)と鎮静剤(ペンタジン)を筋肉注射します。心臓の病気、緑内障、前立腺肥 大のある方は、薬剤の変更が必要になる場合があります。

 つぎに局所麻酔剤(キシロカイン)でのどと気管の麻酔を行います。咽頭反射(のどを刺激したとき”オエッ”とむかつきがでる反射)と咳反射(むせ て気管にものが入ったときに咳がでる反射)を押さえるのが目的です。苦い液ですが、霧吹きのようにして麻酔薬を噴霧します。のどに吹き掛けることとで咽頭 の麻酔をし、局所麻酔薬を呼吸に合わせて吸うことで気管の中まで麻酔をします。また検査中も適宜麻酔を追加します。

以上が伝統的な麻酔方法ですが、息をするところにファイバーが入りますので苦しい検査といわれてきました。このため最近はほとんどの方で静脈麻酔を 行うようになりました。つまり点滴をしながら横から麻酔薬(ドルミカム)を注射して眠った状態で検査を受けてもらっています。もちろんある程度の呼吸抑制 はありますので、酸素吸入と酸素飽和度のモニターをしながら行います。このため準備に時間がかかること、検査中の事はほとんど覚えていない人が多い(麻酔 薬による健忘:検査中の事を全く覚えていない場合もあること)など問題点はありますが、楽に検査を受ける事ができます。ただし静脈麻酔を希望しない場合 は、希望に従いますので主治医に相談してください。

図4

3.検査中

 静脈麻酔を行ってほぼ記憶がなくなった場合は問題有りませんが、麻酔が効きにくい場合や静脈麻酔をしなかった場合の話をします。
 マウスピースをくわえて、目に麻酔など薬が入らないように目隠しをして検査が始まります。
 検査中は口からファイバーが入っていますので声が出ません。苦しいとか咳が出そうなときは手で合図をして下さい。台をたたいても手を上げてもかまいませ ん。またのどに痰がたまった場合のどを指差してくれればのどの吸引を行います。
 また意識がある場合右向き、左向きなど体のむきを変えるとき協力していただければ幸いです。

4.検査後

 静脈麻酔(ドルミカム)を使用した場合、検査終了後麻酔を覚ます薬(アネキセート)を注射し、意識が回復します。
 生検など出血を伴う処置をした場合、処置をしたほうを下にした側臥位で1時間安静にしてもらいます。
また局所麻酔薬(キシロカイン)は検査直後は全身的にも効いていますの生検をしていなくても1時間は安静にしてください。
ふらふらする場合があります。
そして検査後2時間は、うがいはかまいませんが、水分、食事の摂取はやめえください。
2時間ぐらいは局所麻酔薬が効いていますので水を飲んでもむせることがあります。
2時間たった時点で水を一口飲んで見てむせなければ麻酔が切れた証拠ですので食事をしてもかまいません。
 検査後、処方されている抗生剤、止血剤を必ず飲んで下さい。検査後には、熱が出たり、痰(たん)に血液が混ることがあります。

5.合併症

 気管支鏡検査はほとんどが安全に行える検査ですが、合併症のある場合危険な場合が有ります。このため前もって心電図、血液ガス、止血機能などで検 査を行うにあたって注意すべき病気がないか確認します。

 しかし基礎疾患や合併症がない場合でも副作用や合併症は起こることがあります。

1)麻酔に伴う副作用

 通常は問題なく局所麻酔を行うことが可能ですが、まれに局所麻酔薬(キシロカイン)の中毒症状として血圧低下、意識混濁、痙攣、不随運動を起こす ことがあります。いずれも一過性でほとんどの場合、短時間で回復します。
 麻酔薬のアナフィラキシーショック(薬に対するアレルギー反応による突然の血圧低下)は、1万人に約1.5人の頻度で起こり得ます。

2)出血

 組織検査のために検体を採取する際に出血が認められることがあります

 検査後、血痰が認められることが多いですが、多くの場合、自然にとまりますが長くても1週間ぐらいで止まります。

 ごくまれに緊急処置が必要となる大量の出血が認められることがあります

3)発熱

 検査当日に38℃前後の発熱を認めることがありますが多くは翌日には解熱します。翌日以降も発熱が続く場合には、肺炎を合併していることがありま す。

4)咽頭痛

 検査後、のどの違和感や痛みを認めることがありますが、一過性であることがほとんどです。

5)気胸

 経気管支肺生検の際に肺をおおっている胸膜に穴があき、気胸(胸腔内に空気が入り肺が縮むこと)を起こすことがあります。ほとんどは症状を伴わず 自然に回復しますが、咳、呼吸困難が出現することもあります。程度がひどい場合は肺を広げるために胸腔にトロッカーという管をいれることが必要になること もあります。

6)呼吸困難

 間質性肺疾患の病気の種類によっては、気管支肺胞洗浄後に増悪が起こることがあります。