これまでに嚢胞腎を発症する遺伝子性疾患である家族性若年性ネフロン癆 (nephronopthi-sis: NPHP)type 2のモデルマウスを用いて、嚢胞腎における細胞内シグナル伝達系のスクリーニングを行いました。その結果、古典的MAP KinaseカスケードのERKシグナルとp38 MAPKシグナルが嚢胞発生初期から異常活性化していることを見出しました。これらの阻害により、嚢胞化を抑制することに成功しています(図2B&C)。
また、嚢胞腎の尿細管上皮細胞の細胞分裂方向が乱れていることを見出しました(図3)。
最近、嚢胞化に細胞極性が関与していることが他の研究室からも報告されております。現在、NPHP2モデルマウスおよび他の嚢胞腎を発症する他系統のマウスを用いて、嚢胞化と細胞極性の関係を研究しています。
さらに、一次繊毛が腎障害後の尿細管再生にも関与していることが報告されています。そこで、急性腎不全モデルマウスを作製して、尿細管再生時における一次繊毛の機能解析についても研究しています。
我々の体は組織の大きさ、かたちが厳密にプログラムされて形成・維持されています。一次繊毛が尿細管のかたち・太さを感知して正常な形態を維持しており、嚢胞腎は一次繊毛の異常により形成・維持機構が破綻した結果だと考えています。これらの研究は繊毛異常によっておこる疾患の原因解明や腎障害後の尿細管再生の機構解析といった医学・臨床的にも重要であり、さらに尿細管の形成・維持機構の解明といった生物学的にも重要な情報が得られると考えています。
[参考文献]
Nephrol Dial Transplant. 2012 Apr;27(4): 1351-8.
Kidney Int. 2011 May;79(9): 957-65.
腎と透析 2011 70(2): 237-242.
細胞工学 2009 28(10): 1021-1026.
Acta Histochem Cytochem. 2009 Apr 28;42(2):39-45.
Genes Cells. 2006 Oct;11(10):1213-24.