近藤 洋一

脱髄疾患における再生

 

 髄鞘(ミエリン鞘)とは神経細胞の軸索のまわりを幾重にも包み込む、脂質に富んだ膜構造のことです。中枢神経系ではオリゴデンドロサイト、末梢神経系ではシュワン細胞がつくっています。髄鞘は絶縁体として働くため、神経細胞の電気活動を安定させます。またランビエ絞輪と呼ばれる隣り合った髄鞘同士の隙間構造をつかって、跳躍伝導というメカニズムにより神経伝達の高速化を可能にしています。髄鞘は軸索を物理的にも保護していて、神経細胞の生存には欠かせないものです。しかし、髄鞘が破壊される(脱髄)、または生まれつき形成されない(髄鞘形成不全)種々の病気が存在し、その多くは重篤な神経症状のために患者さんの生命をおびやかしています。これら髄鞘の病気の病態を解明し、また失われた髄鞘を細胞移植などの手段によって再建して、治療法の開発に貢献することが研究の目的です。

1.クラッベ病における髄鞘再生治療法の開発

 クラッベ病(グロボイド細胞白質ジストロフィー)は難病に指定されている脱髄疾患で,ライソソーム酵素であるガラクトセレブロシダーゼの活性が遺伝的に低下または欠損するために生じます。現在,骨髄移植または臍帯血移植が唯一の治療法ですが,その効果には限界があります。私達はクラッベ病のマウスモデルを用いて,骨髄移植をグリア前駆細胞の移植や遺伝子治療と組み合わせる等により,効果的な酵素補充療法を探索しています。(参考文献:1,2)

2.ヒトグリア細胞キメラマウスを用いたヒト特異的脳疾患モデル作製

 ヒト由来のグリア前駆細胞を免疫不全マウス新生仔の脳に移植することで脳内のグリア細胞がヒト由来のものに置き換えられたマウスが作製できます。私達はこのキメラマウスを利用して,ヒトにのみ感染し進行性多巣性白質脳症(PML)を起こすJCウイルスの感染様式を明らかにしました。現在,さらなるPMLの病態を解明しているほか,このキメラマウスを用いて,他にも多くあるヒト特異的な疾患(ヘルペス脳炎など)について 動物モデルの確立を目指しています。(参考文献:3)

参考文献

1.Kondo Y, Wenger DA, Gallo V, Duncan ID. Galactocerebrosidase-deficient oligodendrocytes maintain stable central myelin by exogenous replacement of the missing enzyme in mice. Proc Natl Acad Sci USA, 102: 18670-18675, 2005. 

2.Kondo Y, Adams JM, Vanier MT, Duncan ID. Macrophages counteract demyelination in a mouse model of globoid cell leukodystrophy. J Neurosci, 31: 3610-3624, 2011.

3.Kondo Y, Windrem MS, Zou L, Chandler-Militello D, Schanz SJ, Auvergne RM, Betstadt SJ, Harrington AR, Johnson M, Kazarov A, Gorelik L, Goldman SA. Human glial chimeric mice reveal astrocytic dependence of JC virus infection. J Clin Invest, 124: 5323-5336, 2014.