黒瀬 仁美

癌細胞の細胞増殖とアポトーシス

乳癌は日本人女性において最も罹患率の高い癌であるが、性質の異なるいくつかのサブタイプが存在するため、個々の乳癌に応じた最適な治療の選択が必要とされる。 最近我々は天然由来成分α-Mangostinが最も悪性度の高いとされるトリプルネガティブ乳癌に対し、細胞周期の停止やアポトーシスの誘導により抗腫瘍効果を発揮することを明らかにした(Kurose et al., 2012, Shibata et al., 2011)。トリプルネガティブ乳癌は分子標的治療薬の標的となるHER2 やホルモン療法の標的となるホルモン受容体(エストロゲンレセプター(ER)、プロゲステロンレセプター(PgR))を発現しないため、選択できる治療薬が限られている。また、全乳癌に占める割合は10数%であるものの、他の乳癌と比較して死亡・再発リスクが高いことや、マンモグラフィーの感度が低く発見しにくいこと、脳転移、肺転移の割合が高いなどの特徴があり、治療薬の開発が望まれている。 更にα-Mangostinは他のサブタイプに対しても抗腫瘍効果を発揮するが、サブタイプ間で異なる機序による細胞死を誘導することがわかってきた。 今後、遺伝子発現バックグラウンドの異なるこれらの乳癌サブタイプ間における薬剤効果の作用機序の違いを明らかにし、標的治療への応用が可能となれば、薬剤治療の選択枝の幅が広がり、個々の乳癌に対してよりカスタマイズされた治療が可能になると考える。