OMPU今回の訪問先― そもそも総合診療科とは、どのような診療を行うのでしょうか。 日本の医学はこれまで、専門性を極める方向で発展してきました。その結果、たとえば内科だけでも循環器内科、消化器内科、呼吸器内科などの専門科に分かれています。これら臓器別に診療を担当するのが縦の専門医とすれば、総合診療医は横の専門医です。つまり一人の患者さんが抱える急性の問題から慢性疾患までを幅広く総合的にサポートします。臓器別の専門医がそれぞれの専門領域を深く掘り下げるのに対して、超高齢社会となった日本では、高齢者の健康維持が極めて重要なテーマです。複数の慢性疾患を抱えがちな高齢者を臓器別に診療すると、いくつもの診療科を回らなければならず医療費もそれだけ増えてしまいます。そこで期待されるのが、多方面にわたって健康を一元管理でき、高齢者に特有の社会的な問題までケアできる総合診療医です。30年以上前から総合診療に取り組んできた鈴木富雄教授は2014年に本学に赴任し、2024年医学部に総合診療医学教室を立ち上げ後進の指導に力を注いでいます。総合診療医の特徴は広範囲に渡る多様な症状への対応であり、2018年に新たに19番目の専門医として認定されました。 特に超高齢社会において複数の病気を発症しがちな高齢患者に、どのように対応すべきか。高齢者に寄り添う医療を実現するためには、できる限り一人の医師が全人的に対応するのが望ましい。その際には介護の必要性も考慮すべきだし、そうなると家族も含めた経済的な問題などへの対応も求められます。まさに高齢者が右肩上がりで増えていく、これからの日本社会に欠かせない存在、それが総合診療医なのです。― 先生は総合診療医を「あなたの専門家」と呼んでおられます。その意味を教えてください。 診察に来られた患者さんからときに「私は高血圧と糖尿病を患っているのですが、先生は何の専門家ですか」などと尋ねられます。そんなときには「私たち総合診療医は、あなたの専門家です」と答えています。臓器別の専門医のように特定の疾患だけ対応するのではなく、目の前の患者さんをいったん丸ごと引き受けるのです。その上で必要であれば、専門医のネットワークも活用して治療にあたります。要は29研究室訪問医学部臓器別の専門医ではなく「あなたの専門家」〜これからの日本に欠かせない総合診療医を育成〜総合診療医学教室教授 鈴木 富雄
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