大阪医科薬科大学学報 7号
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OMPUUrology annual meetingボストンの泌尿器科医でBBQラボ仲間とロードトリップ私は2022年3月からボストンのBrigham and Women˙s Hospital/ハーバード・メディカル・スクール/Li Jia Labに留学しておりました。もともと留学に対して強いビジョンを持っていたわけではありませんでしたが、泌尿器学教室の説明を受けて入局してからは、自分の経験と研鑽を積むために留学を考えるようになりました。この決断の背景には、世界トップクラスの研究環境で学び、最先端の技術と知識を習得したいという強い思いがありました。特に、前立腺癌のゲノムオーダーメイド治療やPARP阻害薬の抵抗性克服といった、臨床と研究の架け橋となるプロジェクトに取り組むことで、日本の医療にも貢献できると感じたからです。これらの研究分野は、私が将来的に日本の医療現場で革新的な治療法を提供するために不可欠だと考えていました。また、ハーバードという名門校の研究環境に身を置くことで、自分自身の研究者としてのスキルを一段と高めることができると確信していました。私が所属していたLi Jia LabはCRISPR screenという手法を用いて、ヒトの全遺伝子を網羅的にノックアウトすることにより、薬剤感受性や薬剤抵抗性に関与する遺伝子を同定する研究を行っていました。特に、前立腺癌でクリニカルトライアルを行っているATR阻害薬を使用し、CRISPR screenを行うことで、バイオマーカーを発見し、新規薬剤の適応拡大を目指しました。これにより、より多くの患者さんが恩恵を受けるような研究に取り組みました。ハーバード大学附属病院の研究室で、世界レベルの研究に触れることができたのは非常に貴重な経験でした。最初はカンファレンスや抄読会などでわかっているふりをして聞いているだけでしたが、後半には積極的にコミュニケーションを取ったり、自分の意見を聞かれたりする機会も増え、成長を感じることができました。アメリカは移民の国であるため、研究室には中国人、台湾人、インド人など、様々な国籍の同僚がいて、彼らの物怖じしない交渉術やハングリー精神には大いに刺激を受けました。私ごとで恐縮ですが、2023年3月にアメリカで息子が生まれました。アメリカの出産は2日で退院させられ、夫の参加が求められます。出産時には臍の緒を切らされたり、胎盤を持たされたり、産後は車で家に帰る準備をしたりと、新鮮で貴重な経験でした。アメリカでの出産と育児を通じて、異文化の中での家族生活の大変さや喜びを実感することができました。また、研究室に所属する同僚の中でも台湾人のドクターと中国人のサイエンティストとはとても仲良くなり、セドナ、グランドキャニオン、ラスベガスへの1週間のロードトリップも一緒に楽しみました。このような旅行やレジャーの経験は、一生の友人を得ると同時に、異文化理解を深める素晴らしい機会となりました。彼らとの交流を通じて、異なる背景を持つ人々と協力する力や、柔軟な思考を養うことができました。これから留学を考えている研究者の方々には、ぜひ積極的に挑戦していただきたいと思います。留学は確かに困難も伴いますが、それ以上に得られるものは大きいです。異文化の中での生活や研究を通じて、自分自身の視野が広がり、新たな発見や学びが得られます。また、世界中の研究者と交流し、協力することで、自身の研究に新たな視点を加えることができるでしょう。何より、自分の成長を実感できる素晴らしい機会ですので、恐れずに飛び込んでください。25なぜ海外留学をしようと思ったか?研究生活私生活これから留学を考える研究者に伝えたいことは?木下 将宏 助教(准)

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