大阪医科薬科大学学報 3号
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BWH entrance前にてBrigham & Women's Hospital NICUにて生後1日目Fenway Parkにて 当教室の3人で「入局後はまず手術を全て執刀できるようになり、その後、海外留学する。行き先はハーバードや」。他院で初期研修をしていた私が医局見学の際に当教室の東治人教授から伺った言葉です。手術と留学、その二つに魅力を感じ当教室への入局を決めました。私が留学を希望していた最も大きな理由は、自分の知らない世界を知り見識を広めることでした。あれから早8年が経ち、この度実際に2019年4月から2022年3月までBrigham & Women’s Hospital/Harvard Medical Schoolへ留学して参りました。夢の海外留学、それも誰もが知っているハーバードへ、そのことに高揚しながらボストンへ到着したことを覚えています。その街並みやレンガ造りの家を見るだけで楽しく、見知らぬ人からの挨拶や笑顔、乗客の乗り心地を無視したバスや電車の運転など、海外に来たことを日々実感すると共にその喜びに浸りました。ボストンには日本と同じ四季があります。自然豊かでそれぞれの季節ごとに、花見、ピクニック、カヤック、紅葉、アイススケートなどをenjoyできます。心地よく爽快という表現が全てに当てはまりますでしょうか。また、Bostonianはスポーツに熱狂的です。アメリカンフットボール、ベースボールをはじめとした全てにボストンを拠点としたチームがあります。特にBoston Red Soxは私の研究施設である病院が公式のサポーターとなっており、Fenway Parkも近接していたため、仕事帰りや休日に同僚や家族と何度も足を運びました。ドラフトビールを引っ掛けながらShohei Ohtaniが放ったGreen Monster越えのホームランを生で観戦できたことは最高の思い出の一つです。今思い返してもボストンでの生活は、ボストンでしか味わうことができず、何をしていても愉しかったという思い出であふれています。アメリカでの基礎研究の魅力はその規模の大きさです。私の所属していたLabはDepartment of Surgery/Division of Urologyに属しており、主に前立腺がんの領域を研究、私はその中でもCRISPR/Cas9 screeningというプロジェクトに携わっていました。2020年にノーベル化学賞を受賞した遺伝子編集技術CRISPR/Cas9をさらに発展させた遺伝子スクリーニング法です。最先端の技術であることはもちろん、全遺伝子を対象とした大規模な研究であり、かかる費用は莫大で、その分責任も重大ですが、将来的に臨床に直結するようなプロジェクトであることに臨床医として非常にやりがいを感じチャレンジしました。基礎研究に関して素人同然であった私ではありましたが、当教室からの前任の先生やボストンで出会った日本人研究者、また、ボスのサポートのおかげで帰国までにプロジェクトを完成させることができました。留学してちょうど1年後にCOVID-19のパンデミックに直面しました。ハーバードの全てのLabが一時的に閉鎖、プロジェクトは中断せざるを得ない状況となり、街は約3~4カ月の間ロックダウンとなりました。そんな中ではありましたが、研究に関しては、毎日のZoom meetingにより、それまでの成果の客観的な総括や論文の抄読に時間を費やすことで有意義に過ごすことができました。また、日常生活においても、診療に追われていた日本では中々取れなかった家族との貴重な時間を過ごすことができ、日常への感謝を再認識することができました。コロナ禍の留学で大変だった、というよりもむしろ私にとっては、より充実した留学生活となりました。私にとって留学中最大の出来事は、2022年2月の娘の誕生です。妊娠の経過やコロナ禍で妻の帰国が難しくなったこともあり、本帰国直前ではありましたが2人でアメリカでの出産を決意しました。最終的に数回の緊急入院と緊急帝王切開を経て娘の誕生に立ち会うことができました。生後1カ月での帰国には大変なことも多かったですが、その間の研究と子育ての両立も含め、私にとっては留学生活で最も充実した1カ月となりました。また、患者サイドからではありますが、アメリカの医療を経験できたことが現在の帰国後の診療にも大きく影響しています。ここではまだまだ書ききれないほど多くの、人生最大の経験をすると共に見識を広めることができ、人生観は大きく変化しました。最後になりますが、私の留学に携わって頂いた全ての方へ感謝すると共に、留学における全ての経験を少しでも医療へ還元することが恩返しであり、私の使命だと考えています。この海外留学記が、海外留学を考えるきっかけ、また現在海外留学を少しでも考えている方への後押しになれば幸いです。43OMPU留学のきっかけ海外での生活基礎研究コロナと海外留学Americanの誕生最後に辻野 拓也 助教

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